子育てを支援するスペースで遊ぶ子どもたち。衆院選では、社会保障の将来像が争点の一つになっている=佐賀県内

■迷う選択、安心欲しいだけ

 何気ない返事が気になった。山口亮子さん(41)=鹿島市=が自宅で、高校生の娘に模試を受けるかを尋ねると「別の試験と重なっているから受けないよ」。言葉通りに受け止めたが、胸の内を想像した。「家計を考えてのことかな」

 5年前に離婚し、娘と中学生の息子を1人で育てる。NPO法人で働き、手取りで20万円に届かない毎月の給料は家賃や食費、光熱費に消える。高校の授業料はかからないが、業者模試の2万円は確かに重い。蓄えが少なく、「貯金できないことが何より怖い」。病気にでもなったら途端に生計が立ちゆかなくなる。

 安倍晋三首相は衆院選で、2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げを巡り、増税分の使い道を見直し、高齢者にとどまらない「全世代型」社会保障への転換を打ち出した。子育て世代や低所得者向けを充実し、幼児教育の無償化や学生の奨学金の増額に振り向ける方針を示す。

 山口さんは子どもたちの進学を控えるが、給付を強調する施策には懐疑的だ。「無償化は3~5歳児が対象。待機児童で困っているのは0~2歳児がいる家庭じゃないの?」。政府が本年度末としてきた待機児童解消の目標時期を3年後に先送りしたことが記憶に新しい。無償化よりも、構造的な課題への対処が先のように思えてならない。

 佐賀新聞社の有権者100人アンケートでは、「全世代型」社会保障への方針転換に63人が賛成し、16人が反対した。「分からない」と答えた21人の中には、選択を迷う声があった。晩婚化や晩産化で、子育てと介護を同時に担う「ダブルケア」の世帯は、社会保障費を抑えるため国が進めてきた医療や介護の負担増がのしかかる。40代で今年6月に第1子を出産した女性は「年齢的に子育てと親の介護が重なる。どちらかではなく、どちらも大事」と切実な思いを口にした。

 12年の旧民主と自民、公明の3党合意に基づく「社会保障と税の一体改革」は消費税率を段階的に引き上げ、使途を医療や介護、年金、少子化対策に充てると決めた。給付と負担のバランスを取る狙いがあり、財政再建もセットだった。

 首相が言及した消費税増税の使途変更や、希望の党や立憲民主党などが公約で掲げる増税凍結は結果的に、財政再建を先送りする形になりかねない。有権者からは「将来のためになるのか」「つけ回しではないのか」と戸惑う声も上がる。

 それでも、夫の介護を続ける県東部の初老の女性は「増税されれば正直、こたえる」とこぼす。医療現場で35年、働き続けたが、年金生活に余裕はない。パンやヨーグルトなど、1円でも安い商品を求めてスーパーをはしごする。「作れるものは自分で」と、畑仕事にも精を出す。「孫のためを思うと、次の世代への振り分けを増やすことは理解できるけど…」

 安心が欲しいだけなのに、選挙のたびに揺れ動く社会保障の将来像。1票を託す先も揺れている。

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