〈夕陽は燃ゆれ吉よし井い浜はま 海士あまの乙女の沐ゆあみする 磯辺に咲くや月見草 さやけき波の音すなり〉。こんな歌詞で始まる旧制佐賀高校水泳部歌「吉井浜思ひ出の歌」は、ゆったりした旋律が優しい◆1923(大正12)年、佐高1回生で水泳部員の吉原正俊、山口正之のコンビが詞と曲を書き、今に歌い継がれる秀歌が生まれた。この顛てん末まつは、佐賀大学楠葉同窓会が刊行した『歌は流れる』(大谷希幸著)に詳しく綴つづられている◆今の糸島市二丈吉井。浜に立つと白波寄せる玄界灘が広がる。当時、ここで水泳部が夏合宿をし、練習に明け暮れた。宿泊所は浜から数キロの大法寺。褌ふんどしに裸足はだしの部員たちは行き来に、歩きながらこの歌を歌う。いつしか里人らも口ずさむようになり、寺に魚などを差し入れ、温かい交流が続いた◆浜近くの福吉中では今も生徒たちが、この歌と逸話を学習する時間がある。約20年前に「地域の歌を大事にしよう」と始まった。今年も21日の文化祭で、歌を題材にした創作狂言や琴演奏を生徒が披露する。立ち寄った直売所の女の子が「歌えますよ」と返してくれた笑顔が印象に残る◆歌碑が大法寺や佐賀大構内に立ち、16年前にはJR福吉駅の碑も加わった。佐賀でも歌える人は少ないのに、糸島の子どもたちが今も大切に歌い継ぐ。縁のありがたさを思うばかりだ。(章)

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