養殖ノリの種付けの準備をする大鋸武浩さん=藤津郡太良町大浦の竹崎港

■全候補開門調査訴え

 

 養殖ノリの種付けが間もなく始まる有明海。10日の衆院選の公示が過ぎ、藤津郡太良町大浦のノリ漁業者大鋸武浩さん(47)は準備に追われていた。漁場に支柱を立て、網を結ぶひもを取り付けていると不安がよぎった。「今年は色落ちが出ないだろうか」

 

■非開門の既成事実化進む

 

◆矛 盾

 

 佐賀県西南部の海域は毎年のように冬場の冷凍ノリシーズンに赤潮による色落ち被害が発生し、その範囲も広がりつつある。原因は不明で、漁業者の疑惑の目は長崎県側の全長約7キロに及ぶ国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防へ向けられる。

 干拓事業の開門問題は法廷闘争が続く。大鋸さんは開門を命じた2010年12月の福岡高裁判決が確定した訴訟の原告の一人。今年4月、長崎地裁で確定判決に相反して開門を認めない判決が言い渡された。大鋸さんは開門派弁護団に同行して山本有二農相(当時)と面会し、ノリの色落ち被害を直接訴えながら控訴を求めた。山本農相が「控訴しない方針」を明らかにしたのはその翌日だった。

 確定判決を6年半の間実行しなかった揚げ句、自ら義務を放棄した国に対し、佐賀県側は一斉に反発した。「国が開門調査の実施を自らの意思で確定させたことを考えると、大臣自ら進んで矛盾した状況に追い込むのは極めて理解に苦しむ」。山口祥義知事は県有明海漁協や沿岸自治体と連名で抗議文を提出した。

 国は地方の声を無視する形で開門しない代わりに創設する有明海再生関連の基金100億円を来年度予算に計上する方針を示す一方、開門するための対策工事費用は見送った。訴訟では開門派への対決姿勢を鮮明にし、開門しないことで国側が支払ってきた9億円超の制裁金を返還させることも視野に確定判決の白紙化を狙う。

 

◆馬 脚

 

 「開門したくない馬脚を現した農水省のバックには官邸の意向があるはず。確定判決をねじ曲げるのは、法律でさえ無視して強引に進める安倍政権の本質を示している」。開門派弁護団は厳しく糾弾する。集団的自衛権を容認する安全保障関連法や特定秘密保護法の国会での成立過程など、数の力を背景に反対意見を切り捨てて押し通すやり方が、開門問題に対する国の姿勢に重なる。

 衆院選の佐賀1、2区の立候補者6人は全員が開門問題で国の基金案に反対の考えを示し、「開門調査による有明海異変の原因究明を」など県と歩調を合わせるように開門を求めている。県内では与野党の主張が似通って争点としてはかすむ。国が再び開門にかじを切る見通しは立たない。

 「選挙で危機との言葉が飛び交っているけど、漁業者は漁業不振で今ここに危機が迫っている。開門が必要なのに、国の言うことは黙って聞けというのがこのまま続いていくのか」。大鋸さんは厳しい表情を浮かべた。開門問題が司法の場で混迷する中、国は「開門せず」の既成事実化を着々と進めている。

このエントリーをはてなブックマークに追加