東京電力福島第1原発事故を巡り、避難者らが国と東電の責任を追及している各地の集団訴訟のうち、原告数が3800人を超える最大規模の福島訴訟の判決があり、福島地裁は国と東電に賠償を命じた。国の責任を認めたのは3月の前橋地裁判決に続き、2例目。居住地の放射線量を事故前の水準まで戻す「原状回復」の請求は退けた。

 これまで判決が出た前橋と千葉の両訴訟とは異なり、原告の大半は避難者ではなく、事故時に福島県や隣県で避難指示などの対象にならず、居住地にとどまった住民。被ばくによる健康不安にさらされずに平穏に生活する権利を侵害され、家族や地域の人間関係を壊された―などと訴えた。

 原発事故から6年7カ月。今なお福島県の5万5千人余りが県の内外で避難生活を強いられ、多くの人が被ばくの不安や風評被害などに苦しんでいる。だが国は原発の再稼働に前のめりだ。福島地裁判決の直前には、新潟県の東電柏崎刈羽原発6、7号機が再稼働に向け原子力規制委員会の審査に事実上合格した。

 衆院選で野党は競うように「原発ゼロ」を公約に掲げているが、具体的な工程表はどこからも示されず、うわべだけの論戦に終わらないか懸念する声も出ている。与野党とも、集団訴訟で語られる住民らの苦悩と事故の教訓にきちんと向き合うことが求められよう。

 判決で福島地裁は、福島沖などで巨大な津波地震が発生する恐れを2002年に指摘した政府機関の長期評価について「専門的研究者の間で正当な見解と是認されていた」とし、国と東電は津波到来を予見できたと判断。「津波対策を取っていれば、事故は回避可能だった」と結論付けた。

 その上で、国の責任を巡り「規制権限の不行使は許容される限度を逸脱し、著しく合理性を欠いていた」と批判。対策を怠った東電の責任については「過失があるといえるが、故意や重過失は認められない」とした。

 国の責任を巡っては前橋判決も同じ判断を示したが、先月の千葉地裁判決は予見可能性を認めながらも「対策を取っても、事故は防げなかった可能性がある」と東電のみに賠償を命じ、裁判所の判断が分かれている。

 政府は事故原因の検証もそこそこに、原発を「重要な電源」と位置付け再稼働を進める。規制委が規制基準への適合を認めたら、その判断を尊重して地元の理解を得るという手続きを踏むが、多くを規制委や自治体、電力会社に任せ、国の責任があいまいなまま、既成事実が積み上げられていくことに前々から疑問が投げ掛けられている。

 福島判決は「国の責任の範囲は東電の責任の2分の1と認めるのが相当」とするが、長年にわたり原発事業が国策として推し進められ、再稼働についても「世界一厳しい規制基準」が強調されており、原発の安全、さらに万が一の事故に対する責任において、国が前面に立つのが筋だろう。

 一方、衆院選では、希望の党が「30年までに原発ゼロ」を、立憲民主党も「一日も早く原発ゼロを実現」をそれぞれ公約に掲げている。ただ他の野党も含め、目標達成の具体的な工程表は示されていない。また原発再稼働を巡って、希望が条件付きで容認するなど主張に濃淡があり、本気度がまだ伝わってこないことを指摘しておきたい。(共同通信・堤秀司)

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