人工保育のチンパンジーには、出産しても抱っこや授乳ができない育児困難や育児放棄の事例が多いと言われています。子どもを産んだからといって育児がすぐにできるわけではないのです。

 育児を身に付けるためには、子守の経験や育児中の母親と一緒に過ごすといった学習が必要です。やむを得ず人工保育となった場合には、育児がうまくできるように、ヒトによる保育介助や早く群れに戻す取り組みが行われています。

 翻ってヒトの社会では少子化が進み、子守の経験などが無いまま親になって、育児困難を訴えている人が増えています。最近では、赤ちゃんを抱っこというより“持っている”人をよく見かけます。

 しかし抱き方がおかしいことに気付いている人は少ないようです。抱き方が悪いと赤ちゃんは落ち着かず、母親も手首痛や肩こり、腰痛で悩むことになります。これらの問題を解決するには適切な抱っこの仕方を身に付けることが必要です。

 体の構造や運動の知識を応用すれば、母子ともに負担が少ない抱っこができます。ただし抱っこの仕方は赤ちゃんの成長や発達段階によって変化しますので、その時々に応じた方法を学ぶ必要があります。

 看護師や助産師を目指す学生も母親と同様に育児経験がほとんどありません。赤ちゃんに接するのは産科実習が初めてという学生ばかりです。実習で、赤ちゃんの世話や母親の手助けができるよう授業で人形を使って練習します。

 しかし実際の赤ちゃんと人形では大きなギャップがあります。このギャップを埋めるために、佐賀大学では授乳相談やスキンケア教室を行い、学生が母親や赤ちゃんに直接触れる機会を設けています。

 最後にチンパンジーは母親一人で育児をしますが、ヒトは母親だけでなく夫や祖父母などみんなで行います。育児経験が無いのは母親だけではありません。みんなで育児を学びましょう。(佐賀大学医学部看護学科・生涯発達看護学講座 佐藤珠美教授)

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