「ゴジラ」は、映画に開眼した原点 映画評論家 西村雄一郎さん

西村雄一郎さん  1951年、佐賀市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後、「キネマ旬報」パリ駐在員に。帰国後、古湯映画祭総合ディレクターを務める。佐賀大、龍谷短期大で映画技術論などを講義。佐賀新聞でコラム「西村雄一郎のシネマトーク」を連載中。映画・音楽評論家。

 日本の特撮と言えば、やっぱり外せないのが「ゴジラ」。1954年の初代から2016年の「シン・ゴジラ」まで、卓越した特撮技術で幅広い世代の人々を楽しませてきました。佐賀出身の映画評論家・西村雄一郎さんやFit読者のみなさんに、ゴジラについての思い出を聞きました。

特撮との出会い

映画「ゴジラ」ポスター(1954年)

 特撮映画との出会いは、小学校に上がる前に見た「空の大怪獣 ラドン」(1956年)。この作品は本当に素晴らしかった。子どもの頃に見ただけあって、恐怖感も圧倒的。ラドンのエサになるヤゴ(メガヌロン)が出てくるんだけど、それを食べるラドンの大きさに驚かされた。ウツボみたいな顔がまた怖くて(笑)。福岡の岩田屋や、できたばかりの西海橋が破壊されたり、天神で戦車が大砲をぶっ放したり、身近な場所が出てくるのも良かった。ラドンの羽ばたきで瓦屋根が吹き飛ばされるなど、特撮ならではのリアリティーもあったと思う。5歳の時に見たけど、今でもハッキリと覚えているくらい印象深い作品。
 ラドン以降、ずっと円谷英二さんの特撮映画が好きだった。「日本誕生」(1959年)「電送人間」、「ガス人間第一号」(ともに1960年)、など、特撮がどんどん力を付けていく時代で、円谷さんの特撮作品はほとんど見た。小学生時代は、〝円谷英二の追っかけ〟とも言える時代だった。

日本映画の英知を結集した「ゴジラ」

映画「ゴジラ」で円谷英二特技監督が使用した台本

 初めてゴジラ作品を見たのは、小学5年の時。「キングコング対ゴジラ」(1962年)だった。熱海城を挟んで対峙(たいじ)するシーンとともに「ゴジラとキングコング、どちらが勝つか?」と盛んに宣伝していたのを覚えている。東宝30周年記念映画で、黒澤明監督の「椿三十郎」も同じ年の公開だった。当時はまさに日本映画の黄金期で、東宝の社運を賭けた作品。自分も佐賀東宝の2階の階段に新聞を敷いて、ワクワクしながら見たのを覚えている。「映画ってすごく面白い」と思えたし、自分が映画に開眼したのがこの年の「キングコング対ゴジラ」と「椿三十郎」によってだった。
 オリジナルの「ゴジラ」(1954年)の元となった「原子怪獣現わる」(1953年)は、パペット(人形)を動かして作られた。「ゴジラ」がパペットを使わなかった理由は、第一に時間がなかったから。記者会見を5月に行い、11月に公開という、製作期間はわずか5カ月。その期間で作品を作り上げるには、ぬいぐるみしかなかった。しかし、短い期間で全知全能をかけて、あれだけの破壊神を作り上げた。まさに、日本映画の英知の結集。これだけの作品が、黒澤明監督の「七人の侍」と同じ年にできたというのも象徴的だ。

「ゴジラ」は耳でも楽しんで

 ゴジラは映像だけではなく、音楽や効果音にも注目してほしい。ゴジラの鳴き声を作った東宝効果集団の三縄一郎さんは、「用心棒」の「バシャ、ドシュ、ブシュ!」という人を斬る斬殺音を作った人。ゴジラの鳴き声は、最初上野動物園まで動物の声をとりに行ったが、最終的にはコントラバスの音を使った。弦を弓で荒っぽく弾いて、テープに録音してゆっくり再生すると、あの印象的な鳴き声になる。爆発音をゴジラの足音にしたり、長いグラスにスパゲティの乾麺を入れ、マイクでつぶして破壊音にしたり、普通はなかなか思いつかないと思う。
 ゴジラといえば、「♪ジャララン、ジャララン、ジャララン」というテーマ曲も印象的。最新作「シン・ゴジラ」(2016年)でも、劇中でオマージュとして使われていた。作曲した伊福部昭さんは、「七人の侍」の音楽を担当した早坂文雄さんのライバルと言われた人物で、祖先は因幡の神職だった。あの壮大なゴジラ音楽は、出雲の神話の世界から生まれたともいえる。

「シン・ゴジラ」の衝撃

 

 「シン・ゴジラ」はCGと模型をうまく組み合わせていて、特撮が本当に良くできていた。シナリオの出来でも、ハリウッドを軽く越えていたと思う。「原発事故がもし東京で起きたらどうなるか」を、形を変えて表現した作品。日本の政府や官僚をうまく描いていたし、自衛隊出動の手続きなど、とにかく情報量がすごい。原発に対するアンチテーゼとして、深いメッセージが込められていた。この作品で、しばらく子ども向けだった特撮映画が、大人のものに戻ったと感じた。

特撮の魅力

 怪獣映画はリアルなら良いってわけじゃない。円谷英二の特撮が今でも魅力的なのは、作り手が知恵をしぼった手作りならではの味やぬくもりがあるから。精巧なミニチュアや身近なものを利用して作った効果音など、まさに〝知恵の結集〟だと言える。「国会議事堂はウエハースで作った」とか、「ゴジラの熱線でひん曲がる鉄塔はロウソクで作った」とかの裏話を知ることによって、特撮の楽しさはますます増してくる。「どうやって撮ったんだろう?」と考えながら見ることが、〝特撮〟鑑賞のコツだと思う。

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