原子力規制委員会が、東京電力柏崎刈羽原発6、7号機(新潟県)の再稼働に向けた審査で、合格証に当たる審査書案を了承した。いまだに収束の見通しすらない福島第1原発の原因企業である東電の、しかも第1原発と同型の沸騰水型原子炉であるだけに、慎重な上にも慎重な審査が必要だ。再稼働にお墨付きを与える今回の決定は、時期尚早で、市民の負託に応えるものとは言い難い。

 審査過程で大きな議論になったのは、東電に原発を運転する資格があるかどうかだった。規制委の田中俊一前委員長は7月に「第1原発廃炉に主体的に取り組む覚悟と実績を示せない事業者に再稼働の資格はない」と述べ、東電に厳しい姿勢を見せていた。

 だが、田中氏は9月6日の会合で「第1原発事故の経験はプラスになる」と東電を評価、一転して、審査をパスする流れができた。18日に退任した田中氏が、最後に再稼働に道をつけた「駆け込み判断だ」との批判が出るのもうなずける。

 委員会は、東電がこれまでに示した安全確保についての「覚悟と決意」を、原発の保安規定に明記させることなどを条件に「適格性がある」と判断した。

 だが、東電は、賠償や事故炉対策、大量の廃棄物処理などのコストが急増し、国や他の電力会社に頼らねばならずにいる。これが常に事故のリスクを抱え、処分の見通しが立っていない放射性廃棄物を生み出す原発を運転する資格を持つ会社だといえるだろうか。委員会の結論は、多くの市民が抱く疑問に答えるものとは言い難い。

 安倍晋三首相は「規制委の審査で安全性が確認された原発の再稼働を進める」と繰り返し述べており、規制委の判断をお墨付きに経済産業省などが再稼働に向けた働きかけを強めるとみられる。

 だが、電力市場の自由化の中で東電離れが進み、再生可能エネルギーの普及や省エネも進む中、電力需給の観点から東電の原発の再稼働を急ぐ理由はない。

 なぜ、脱原発を求める過半の世論に反し、これほど市民の抵抗感が強い原発再稼働に急いで道を開こうとするのか。国策への配慮以外に納得できる理由があるだろうか。

 今回の決定は、規制委に対する市民の信頼を大きく損ない、将来に禍根を残すものだ。

 「柏崎刈羽原発の再稼働は東電による円滑な賠償や事故対策推進に欠かせない」というのが経産省などの主張だが、原発再稼働が東電の経営状況を大きく好転させるかどうかは疑わしい。

 新増設はもちろん、既設炉の維持管理にも巨額のコストがかかる原発は世界の多くの電力会社にとって重荷となりつつある。自由化市場の中で東電もこの状況から逃れられない。東電は、海外の電力会社のように再生エネルギーや省エネなどのエネルギーサービスに新たな収益源を求めるべきなのだが、再稼働への傾斜は原発依存を強め、東電の構造改革を遅らせることになる。

 政権側が規制委の判断を理由に再稼働を推進する一方、規制委が「合格イコール事故ゼロではない」とするなど、再稼働を認めた原発が事故を起こした際の責任の所在も不明確なままだ。柏崎刈羽を含めた原発の必要性と将来について、民主的な場で議論と検証を行うことが先決だ。(共同通信・井田徹治)

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