日本国憲法の施行から70年の年に行われる今回の衆院選は、その改正論議の重大な岐路となる。

 自民党は改憲に強い意欲を示す安倍晋三首相の下での国政選挙で、初めて公約の柱に改憲を明記。小池百合子東京都知事が率いる新党「希望の党」も改憲に前向きな姿勢を示し、「憲法観」による候補者選別に反発する民進党前議員らは「立憲主義」を掲げる新党を結成する。共産、社民両党は改憲反対を主張する。

 一つの焦点は、憲法改正に前向きな勢力が国会の改憲発議に必要な「3分の2以上」の議席を維持するのかだ。具体的な対象条項で見解の相違が鮮明になる可能性もある。選挙結果は改憲論議の行方を大きく左右しよう。

 憲法は国の基本理念を定めるものだ。憲法に関する議論は、どういう国家、社会を築くのかを土台に行われるべきであり、「改憲ありき」の議論に陥ってはならない。どの政党、候補者が将来像を描く憲法論議に真摯に向き合い、自らの理念を語るのか。その姿勢を見極めたい。

 自民党は衆院選の公約を発表し、6本柱の一つに改憲を掲げた。首相が提起した9条への自衛隊明記や教育無償化、緊急事態対応、参院選「合区」解消の4項目に関し「党内外の十分な議論を踏まえ」「初めての改憲を目指す」と盛り込んだ。

 だがいずれの項目も自民党内の議論が集約されていないものだ。衆院選の結果、安倍政権が継続すれば、首相は国民の「信任」を得たとして改憲4項目に関する議論を加速させる構えだろう。だが党内外で今後「十分な議論」を行うという記述でそう主張できるのか。

 それ以前に問わなければならないのは、憲法に対する首相の姿勢だろう。2012年の政権復帰後、まず改憲発議の要件を緩和する96条改正を提唱。その後、憲法解釈変更という手法で、違憲とされてきた集団的自衛権行使を解禁する安全保障関連法を制定した。

 今年5月の憲法記念日には、20年までの改正憲法施行を目指すと表明。戦力不保持を定めた9条2項を維持したまま自衛隊を明記するという、党内でも議論されていない「加憲案」を提起した。

 目指す条項が次々と変わるのは、改憲自体が目的と化しているからではないか。憲法は国家権力を縛るという「立憲主義」を最高権力者がないがしろにしてきた。選挙の争点の一つは、その姿勢への評価と言える。

 各党の主張の対立軸はやはり9条になる。与党の公明党は9条改正には慎重な姿勢を示す。野党の日本維新の会は公約に9条改正を明記した。

 一方、小池氏は9条論議先行には慎重な姿勢を示し、第8章の「地方自治」の条項改正などを主張する。ただ具体的な説明は不十分だ。民進党からの合流者を「憲法観」を基準に選別するというが、その憲法観が何を指すのかは不明確だ。

 選別に反発する民進党前議員らで「立憲民主党」を結成する枝野幸男氏は首相の解散権を制限する改憲案などを主張してきた。一字一句変えないという「護憲」ではない。

 国会の憲法審査会では各党がこうした見解を示し、改憲の必要性で合意が可能か議論を積み重ねてきた。その流れが解散で断ち切られた。だが選択をせかす動きに惑わされず、訴えをじっくりと読み解きたい。憲法が定める主権者は私たちだ。(共同通信・川上高志)

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