なぜ今解散なのか。「大義」は何か―。多くの国民の疑問は解けないままだろう。

 安倍晋三首相が記者会見し、28日召集の臨時国会冒頭に衆院を解散すると正式に表明した。第48回の衆院選は10月10日公示―22日投開票の日程で実施される。

 首相は会見で「少子高齢化や北朝鮮情勢に対応するため、政権基盤を固めるよう国民の信を問いたい」と強調。教育無償化や子育て支援など「全世代型社会保障」を目指す「人づくり革命」と生産性向上に3年間で集中的に取り組む「生産性革命」を表明した。

 その上で、2019年10月に予定される消費税率10%への引き上げによる増収分を、借金返済ではなく、社会保障財源に使途を変えるとして「約束を変更する以上、国民に信を問わなければならない」と解散の理由を説明した。

 さらに核・ミサイル開発を続ける北朝鮮への圧力強化路線を訴え、「選挙で国民の信任を得て力強い外交を行う」と強調。「国難突破解散だ」と主張した。

 だが国会の現状を考えれば、首相の発言には疑問が尽きない。自民、公明の与党は今、衆参両院で圧倒的多数の議席を持っており、政権基盤は安定しているはずだ。政策変更を行うならば、国会できちんと議論をして、それが行き詰まれば解散で信を問えばいい。

 消費税増収の使途変更は既に民進党の前原誠司代表が打ち出している。国会で合意すれば実現は可能であり、総選挙の争点にはならない。

 北朝鮮情勢が緊迫化しているのならば、現在の政権を維持して、今こそ危機回避のための外交努力を尽くすときではないか。解散・総選挙による「政治空白」をつくるのは理屈に合わない。

 衆院議員の任期を1年2カ月以上残す現時点で、あえて解散・総選挙を行う説得力ある理由が示されたとは言い難い。共同通信社の全国電話世論調査では、この時期の解散に64%の人が「反対」と答えた。有権者として解散の狙いと公約をしっかりと吟味したい。

 一方で、野党の混迷も目を覆う。小池百合子東京都知事は自らが代表となる新党「希望の党」を立ち上げると表明。民進党などから合流を目指す離党者が続いている。

 だが自らの議席維持を最優先に政党を移る政治家の行動は有権者の信頼を失うだけだ。理念と政策で国民に明確な選択肢を示すよう各政党と候補者に求めたい。

 首相は会見で学校法人森友、加計学園を巡る疑惑について「丁寧に説明する努力を重ねてきた」と強調した。だが野党が憲法の規定に基づいて要求した臨時国会の召集を約3カ月間も拒否し、その揚げ句に召集日に議論もせずに解散をする。

 この間、限られた時間の閉会中審査に応じただけだ。世論調査では両学園問題に関する政府の説明に、78%の人が「納得できない」と答えている。「疑惑隠し解散」との野党の指摘も当然だろう。

 一方、首相は会見で憲法改正には言及しなかった。自民党が検討している選挙公約では改憲が一つの柱だ。「争点隠し」は許されない。丁寧に説明をする必要がある。

 奇襲のような解散と迷走する政治家の姿は有権者の政治不信を深める。理念と政策で国民の判断を仰ぐ民主主義の基本をいま一度、熟考すべきだ。

(共同通信・川上高志)

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