ノーベル平和賞を受賞したバングラデシュのムハマド・ユヌス氏が貧困問題にかかわりだしたのは、大学で経済学を教えていた1970年代前半だった。天災が重なり、飢饉(ききん)が発生。自分なりにできることを探し、ある村で一人の貧しい女性と出会う◆金貸しから借りたわずかな金を元手に、椅子を手作りし生計を立てていたが、金利は恐ろしく高く、商品は全て金貸しがカタにかすめ取っていくも同然だった。「まるで奴隷のようではないか」―。考えた末に「マイクロクレジット」という救済方法にたどりつく◆村人「5人組」に、無担保で少額を融資し、毎週の元利の返済さえすれば増額できる道も。連帯責任でなく互いの助け合いを促し、高い返済率を実現する。人が本来持ち合わせている信頼する心と、労働意欲が担保なのである◆ユヌス氏が創設し、「貧者の銀行」として知られるグラミン銀行が、来夏の運営開始をめどに日本進出を検討しているという。就労のための経費など、自立への使途を条件に働く意欲を後押しする◆銀行は富める人しか相手にしないという常識を見事に破った試みが、途上国から先進国に―。一見、豊かに見えても、内実は人口の6人に1人が貧困ライン以下で生活しているともいわれる日本。この銀行の存在が真の豊かさを社会に教えてくれるだろう。(章)

このエントリーをはてなブックマークに追加