秋から冬にかけて救急搬送が目立つ主な病気は心筋梗塞や脳卒中です。2つの疾患が突然起きた場合の症状と、命を救うために家族やそばにいる人たちができる応急処置を救急医療の最前線で活躍する佐賀大学医学部附属病院(佐賀市)救急医学講座の教授で、高度救命救急センターの阪本雄一郎センター長に聞きました。

【心筋梗塞】

 心筋梗塞は、心臓の心筋細胞に血液を送り酸素や栄養を送る生命維持に極めて重要な冠動脈が詰まって血流が断たれ、心臓の筋肉が壊死してしまうもので、直接命の危険にかかわってきます。特に、秋冬は家の中でも暖かい部屋から寒い廊下に出るなど温度差によって血圧の激しい変動が起こるため、発症の危険度が高くなります。

■心筋梗塞の症状と対処

 突然胸の激しい痛みが起きた時は心筋梗塞を疑います。他に呼吸苦や冷や汗、吐き気、胃の痛みなどの症状もあります。心筋梗塞を疑うような場合はすぐに救急車を要請しましょう。

 高齢者や、糖尿病などの疾患がある人は症状が出にくいこともあるので、症状と重篤さが一致しないことがあり、注意が必要です。症状がさほど強くない場合は救急車を呼ぶタイミングは難しいと思いますが、必ずしも激しい痛みが起きるわけではなく、迅速な対応が重要です。心筋梗塞が疑われたら119番に連絡するべきです。

■状況に応じ心臓マッサージを

 急に人が倒れた場合は、両肩を軽くたたきながら呼びかけ、反応がないときはすぐに人を呼んで119番通報とAEDの手配が必要です。胸とおなかの動きを見て普段通りの呼吸がない場合には直ちに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始めてください。やり方を知らなくても119番に連絡し、必要な状況であれば電話で胸骨圧迫のやり方を教えてもらえます。

 呼吸しているように見えても、下あごあたりが動いてしゃくりあげるような呼吸は「死戦期呼吸」といって心臓が停止した直後のサインですから、すぐに対処します。

 心臓が停止して3分経過すると死亡率が50%を超えるともいわれていますから、救急車が到着するまでのそばにいる人の行動は極めて重要です。事前に消防機関や日本赤十字社などが行う心肺蘇生術の訓練に参加しておくといざというときに役に立ちます。

【脳卒中】

 脳卒中も心筋梗塞と同様に寒い室外から暖かい室内へ、逆に暖かい場所から寒い場所に移動するときの急激な気温差が血圧の変動を引き起こし、発症の危険が増します。血圧が上がれば血管内の圧力が高まって血管が破れる「脳出血」を起こしやすく、血圧が下がれば血管が詰まる「脳梗塞」を起こしやすくなります。

■脳卒中の症状と対処

 症状はさまざまですが、突然起きるという点では共通した特徴で、片まひという顔の左右半分、片手や片足が突然動かなくなる、ろれつが回らなくなる、頭痛、吐き気やめまいなどを起こします。意識状態が悪くなることもあります。脳動脈瘤が破れる「くも膜下出血」を発症した場合は、今まで経験したことがないような強い痛みがあるのが特徴的です。

 脳梗塞を起こすと血流が脳に届かなくなり、脳神経細胞が壊死を起こして日常生活に支障をきたす後遺症が残ることもあります。脳神経細胞への影響が少ないうちに対処するためには、時間との勝負です。脳梗塞の場合、発症から4時間30分以内に投与できるTPA療法(血栓溶解療法)の効果が期待できますが、発症から病院到着までの時間が遅れると投与できません。そこで、早く病院に到着することに加えて脳卒中の患者さんが何時間前まで元気だったかという情報がすごく重要です。家族でお互い声をかけて様子を確認するなど、普段からのコミュニケーションも大切です。

■安全な場所に移し横向きにして待つ

 

 心筋梗塞同様、急に人が倒れた場合は、両肩を軽く叩きながら呼びかけ、反応がないときはすぐに人を呼んで119番通報とAEDの手配が必要です。「救急車が来るまで動かしてはいけない」と思われがちですが、安全な場所に移動し、ベルトやネクタイなどを緩めて呼吸をしやすくしてあげます。おう吐物が気管に詰まらないように、横向きにして回復体位(イラスト)を取り、気道を確保することも意識がない場合には重要です。

■回復体位

 下あごを前に出し、両肘を曲げ上側のひざを約90度曲げ、傷病者が後ろに倒れないようにします。この体位で舌根沈下や吐物による窒息を防ぐことができます

【インフルエンザ】

■秋冬に重症患者急増

 寒くなって体温が下がると免疫力も低下します。さらに冷たい空気を吸うと血管が収縮して血流が悪くなり、体に入ってきたばい菌を外に吐き出す機能も低下するため、インフルエンザにかかる確率も高くなります。そこから肺炎を併発したり、発熱から脱水症状を引き起こしたりして救急搬送されてくる人も意外と多いのです。重症化しないようにするためには、体を温かくして水分補給をしっかりすること。高齢者や幼い子どもは予防力が低いので、特に水分補給を意識してもらえればと思います。

【秋冬の安全】

■秋冬を安全に過ごすために

 最近は若い人たちにも生活習慣病が増えていますから、心筋梗塞や脳卒中は人ごとではありません。普段から糖尿病や高脂血症、高血圧症、動脈硬化といった血管系の疾患で血管をボロボロにしてしまう生活習慣病を食事や運動で予防したり、脳ドックなどの検診も定期的に受けて早期発見・早期治療に努めてください。

 住環境では、ヒートショックにならないようにトイレや脱衣所なども暖めておくなど温度管理に注意しましょう。

 心筋梗塞や脳卒中かもしれないという緊急性の見極めポイントは突然の発症です。そんなときはすぐに119番に連絡します。通報者は落ち着いて救急隊員に本人の様子を伝えてください。

佐賀大学医学部附属病院高度救命救急センター

 

センター長 阪本 雄一郎 氏

1993年5月、佐賀大学附属病院一般・消化器外科を皮切りに、県立病院好生館、唐津赤十字病院などを経て2001年6月、佐賀大学附属病院へ。02年9月、日本医科大学千葉北総病院救命救急センター助教、08年4月、同院救命救急センター病院講師。10年3月、佐賀大学医学部非常災害医療学講座(寄附講座)教授、同年8月、救急医学講座教授。日本救急医学会専門医、指導医、評議員、佐賀県災害医療コーディネーターなど多数歴任。

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