寒い季節は、風邪やインフルエンザウイルスにとって最も活動しやすい時期です。風邪にかかったときの対処法や、多くの人が絶大な信頼をおく抗生物質の役割と、世界的に問題になっている抗生物質の負の側面について、佐賀大学医学部国際医療学講座・臨床感染症学分野の青木洋介教授に聞きました。

■風邪には水分補給と栄養

 「風邪をひいたら抗生物質を飲めば治る」「風邪を軽いうちに治したいから抗生物質」と信じている人は多いと思います。実際に自ら「抗生物質をください」と求める人もいますし、処方されないと不安に感じる人もいます。しかし、風邪に効く抗生物質はありません。風邪はほとんどの場合ウイルス感染ですが、抗生物質は細菌の感染に対する薬で、風邪ウイルスには効かないのです。風邪は抗生物質で治っているのではなく、自分自身が持つ体力で改善しているのです。風邪をひいたら水分補給や栄養を十分に取って安静にするのが一番。熱や咳、のどの痛みが出たときは、その症状を抑える薬を処方してもらってください。

■善玉・悪玉区別なくやっつける

 「不要な抗生物質を服用しないで」と声高に言うのには理由があります。抗生物質には体に及ぼす大きなマイナス面があるのです。人の体のルーツは37億年前に生まれたバクテリア(常在菌)です。人の全細胞は約130兆個あり、そのうち約75%にあたる約100兆個がバクテリアでできています。性質の異なる無数のバクテリアが人と共生することにより、私たちは体の機能を正常に保つことができるのです。

 ところがむやみに抗生物質を服用すると悪玉菌も善玉菌も区別なくやっつけてしまいます。すると、バクテリアは抗生物質に負けないように、栄養が乏しくても、酸素や光がなくても長年生き抜いてきた体内環境に対する強い適応能力で、抗生物質に対する耐性(抵抗力)を持つ「薬剤耐性菌」に変化してしまいます。

 そうなると本当に細菌感染を防ぐために抗生物質が必要な時、効果が期待できないという事態に陥ります。例えば手術した傷口が細菌感染しないように抗生物質を投与しても皮膚表面に常在している守護神・バクテリアがいない、もしくは薬剤耐性菌に変化していたら、感染症で命を落とすということにもなりかねません。

■細菌感染防止目的の抗生物質は飲み切る

 抗生物質は細菌感染を防ぐために有効です。医師に処方されたら、用法、用量を守って飲み切ってください。症状が改善したから「もう飲まなくていいや」と自己診断して途中で止めた場合、感染した細菌を撃退しきれずに残る場合があります。それが薬剤耐性を持つ菌に変化することもありますので、指示は守りましょう。手元に残しておいた抗生物質を、身内の誰かが発熱した時に内服させる、などは決して行ってはいけません。

 薬剤耐性菌は世界的にも問題になっていて、日本では2016年に「薬剤耐性対策アクションプラン」が策定され、「適切な薬剤」を「必要な場合に限り」、「適切な量と期間」使用することの徹底を図っています。

■崩れたバクテリアバランスが原因で新たな症状も

 最近は抗菌グッズが普及していますが、菌を一掃する考え方は誤った傾向です。例えば、腸内細菌は免疫機能や内分泌機能を維持するのに役立っていますが、不要な抗生物質の服用で、腸内バクテリアのバランスが変化し、喘息や肥満、食物アレルギー、花粉症、若年性糖尿病などの発症に関係しているともいわれています。

 風邪以外でも、ノロウイルスやロタウイルスなど寒い季節に増える感染症は、ウイルス感染ですから抗生物質は効きません。ノロウイルスやロタウイルスは下痢を伴いますので脱水症状にならないよう、しっかり水分補給をしてください。冬季に流行するインフルエンザを治療する薬はありますが、インフルエンザにのみ効く抗ウイルス剤であり、抗生物質ではありません。インフルエンザは予防注射をしておけば発症しても軽い症状で済みますので、ぜひ接種を受けることをお勧めします。11月に接種するのがベストです。

 

佐賀大学医学部国際医療学講座

 

主任教授(国際医療・臨床感染症学分野)

佐賀大学附属病院感染制御部長

青木 洋介 (あおき・ようすけ)1984年、福岡大学医学部卒後、佐賀医科大学(当時)、米国スタンフォード大学などを経て97年、佐賀医科大学(当時)へ。2003年、佐賀大学医学部准教授、07年から佐賀大学医学部附属病院感染制御部部長。11年から現職。

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