日ロ首脳会談が終わった。北方領土での「共同経済活動」や、元島民の自由訪問の拡大、中断していた外務・防衛担当閣僚会合「2プラス2」再開などで合意したものの、平和条約締結や領土問題解決への道筋は見えないままだ。

 安倍晋三首相が地元の山口県長門市に招いてまで歓待した2日間の首脳会談は、日本側の譲歩ばかりが目立った。総じて成果に乏しいと言わざるを得ない。

 安倍首相が打ち出した「新しいアプローチ」は、領土問題はいったん脇に置いて北方四島の開発を日ロが共同で行い、経済をてこに将来的な領土問題の決着に結びつけようという戦略のようだ。

 だが、共同経済活動そのものは目新しいアイデアではない。1998年にエリツィン大統領(当時)から提案があったが、法的な整理などが難しく、日本側が拒否した経緯がある。今回は日本側が歩み寄った格好だが、肝心の主権問題は棚上げしてしまった。かろうじて「平和条約締結の重要な一歩」と位置づけはしたが、どのようなプロセスを経て条約締結に至るのかはまったく示されなかった。

 気がかりは、国際社会がどう受け止めるかである。共同経済活動を日ロどちらの法律の下で進めるかをあいまいにした結果、国際社会から見れば、日本がロシアの主権を認めたようにしか見えないのではないか。

 ここまで安倍首相が前のめりなのは、両国の政治状況が安定しているこの機会を逃せば、解決が遠のくという意識があるからだろう。安倍首相もプーチン大統領も高い支持率を誇り、大胆な政治決断をしやすい政治環境を備えているのは確かだ。両首脳はこれまでに会談を重ねて信頼関係を築いてもおり、両首脳の強いリーダーシップで一気に前へ進めたいという思惑も理解できる。

 だが、今回の会談は、日本側にとって不利な条件が重なった。まず、米大統領選で次期大統領にトランプ氏が決まり、欧米によるロシアへの制裁が軟化するのではないかという観測が出てきた。加えて、エネルギー産出国であるロシアを苦しめてきた原油安が、石油輸出国機構(OPEC)の減産合意で原油高へと転じたという事情がある。

 政治、経済両面で追い風が吹き、ロシアにとっては北方領土問題で大きく譲歩してまで日本側から経済協力を引き出す必要性が薄れてしまったわけだ。

 この先、北方領土交渉は長期戦になると覚悟しておく必要がある。

 ロシアは中国、ノルウェーとも国境問題を抱えていたが、2004年に中国と国境を画定させ、10年にはノルウェーとも決着させた。いずれも交渉には40年近い時間をかけ、領土、海域をそれぞれほぼ2等分するというやり方だった。

 以前、プーチン氏が北方領土交渉に関する日本の報道機関とのインタビューで、空手の「引き分け」という言葉を使っていたのを思い出させる。

 国際的な政治状況も絡んで、楽観は許されない。このままでは経済協力だけが進み、領土問題は置き去りという最悪のシナリオが現実味を帯びてくる。ロシア側の出方を見極めつつ、粘り強く交渉を続けてもらいたい。(古賀史生)

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