<渡りは、一つ一つの個性が目の前に広がる景色と関わりながら自分の進路を切り拓いていく、旅の物語の集合体である>。渡り鳥についての紀行随筆『渡りの足跡』に記す作家、梨木香歩(なしきかほ)さんの言葉だ◆「渡り」は鳥たちの季節移動であり、回帰移動だが、どこかロマンがある。多くの小鳥は夜に渡りをするという。大抵の鳥類は夜、視力が低下する。そこで晴天の月夜や満天の星空の夜を選んで、群れをなして飛ぶ。月面の、無数の鳥たちが飛ぶシルエットを想像すると、どこか切なくなる◆日本の各地で鳥インフルエンザウイルスが検出され、農場や養鶏場で殺処分が出た。死んだ野鳥などからも韓国と同型のウイルスが確認されている。野鳥のリレーで大陸から運んでくることも考えられるそうだが、無心に飛ぶ渡り鳥のことだから、防ぐ手立てが限られる◆樺太などの北方と、韓国などからの2ルートがあるようだ。佐賀でも、昨年1月に有田町の養鶏場で大量の殺処分に至った苦い記憶がある。関係者の警戒態勢が続く。時期が早まっており、気が抜けない◆渡り鳥には、生まれ故郷に「帰りたい」との願望が本能として遺伝子に組み込まれている。その衝動に突き動かされるように、今もどこかの空を飛んでいることだろう。どうか不安の種は持ち込まないで、と願うばかりだ。(章)

このエントリーをはてなブックマークに追加