フランス大統領選決選投票は、親欧州連合(EU)で39歳の中道系マクロン前経済相が、極右、国民戦線(FN)のルペン候補を破って当選した。フランスのEU離脱を掲げたルペン候補が敗れたことで、欧州各国には安堵(あんど)感が広がる。

 だが、安心してばかりはいられない。フランス大統領選前の3月、オランダ下院選で反EUの極右勢力が第2党にとどまったのをみて、EU各国は同じようにため息をついたのではなかったか。9月にはドイツ総選挙も控える。

 加盟各国の国政選挙があるたびに、EUと欧州統合の理念は、極右やポピュリズム(大衆迎合主義)政党の挑戦を受け続ける。この連鎖を断ち切るには、統合に新風を吹き込み、EU自らが蘇生しなければならない。これが統合を主導してきたフランスの新大統領の大きな課題となる。

 EUはこの10年ほど、うまくいっていない。2009年に始まった欧州債務危機は、依然火種を残している。15年に起きた大量の難民流入で、加盟国は受け入れの分担を目指したが、東欧諸国の難色で足並みは乱れたままだ。イスラム過激思想に染まったテロリストたちの国境を超えた連携に、捜査当局はなかなか追いつけない。

 さらに、英国のEU離脱をどう進めるか、残った27カ国でどのようなEU将来像を目指すのか、もはっきりしない。各国で国民がEUへの関心を失い、ポピュリストの壮語に乗って敵視するようにまでなった理由だ。

 マクロン氏のEU政策には、EUと市民の接近に焦点を当てた興味深いものが含まれる。

 一つが、今年末から断続的開催を呼びかけている市民参加のEU会議だ。EU機構はエリート官僚の牙城となっており、一般市民の声が届きにくい。EUが今優先して取り組むべきことは何か、半年から10カ月かけて加盟各国で集中的に声を聞こうと呼びかけている。

 もう一つが「エラスムス計画」の拡充だ。この計画は、EUの前身が1980年代に始めた域内留学の促進政策。EUが留学費用を援助し、例えばイタリアの学生をポーランドで学ばせるなどして「欧州市民」を育成してきた。

 マクロン氏は、この交流規模を段階的に3倍に拡大しようと掲げる。将来フランスからは年間20万人を国外で学ばせる計画だ。効果が表れるまでには時間がかかるが、欧州人意識の広がりは長期的にEUにとり前向きの効果をもたらすだろう。

 決選投票では、左右の有力政治家からサッカー元フランス代表のスーパースター、ジダン氏までが反極右を呼びかけたが、ルペン氏の暫定最終結果の得票率は約34%だった。同じく反EUの父親ジャンマリ・ルペン氏が2002年に大統領選決選投票に進んだ際の得票率は18%。極右ポピュリズムへの支持は、15年で約2倍に膨れあがった。

 国境を閉じ、少数派の民族・宗教を社会の周縁に追いやれば、自分たちは世界の真ん中で咲き誇れるという考え方は根が深い。トランプ米大統領が批判を浴びつつも、根強い支持層に支えられている理由もこれだ。

 敵意と分断を生み出す指導者が大手を振る中、マクロン氏には開かれた社会、多様性の尊重といった価値に新たな意味を付与する風を巻き起こしてもらいたい。(共同通信・軍司泰史)

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