■開門派説得狙い提示? 

 国営諫早湾干拓事業を巡る開門差し止め訴訟の和解協議に関し、農林水産省が開門に代わる総額100億円の基金案を受け入れてもらうため、佐賀、福岡、熊本3県の漁業団体幹部に想定問答を文書で示していたことが8日、関係者への取材で分かった。開門を求める漁業者を説得する目的だったとみられ、各団体の決定に影響を与えた可能性もある。

 漁業者側弁護団は「漁業団体幹部を脅すようなやり方。ひどい話だ」と反発、国に想定問答を開示させるよう長崎地裁に求める方針を示した。

 関係者によると、農水省から文書が示されたのは昨年11月下旬。基金案の総額が100億円と初めて明示された3県の漁業団体の会合で、「組合員への説明で参考にしてほしい」として配布された後、その場で回収された。ただ、出席者が複写したものが後日、共有されたという。

 文書には、基金案を受け入れても開門の旗を降ろすことにはならないことや、有明海の再生には基金の受け入れが最優先であることなどが列記されていたという。組合員から総会を開く声が上がった場合は、トップへの一任を求めることも明記されていた。

 3県の漁業団体は当初、漁業不振の原因究明に向けた開門調査を求める姿勢で一致していたが、昨年11月末に100億円が示された以降、福岡、熊本の両県漁連が相次いで基金案の受け入れを決めた。佐賀県有明海漁協は拒否した。

 想定問答の文書を示したことについて、山本有二農相は同日の衆院農林水産委員会で「和解に向けた関係者の話し合いに影響することなので(コメントは)差し控えたい」と明言を避けた。

 取材に対し、佐賀県有明海漁協の徳永重昭組合長は「国の意向に沿って決めようと思ったことはない」と述べた。福岡有明海漁連は「覚えていない。あったとしても、それに基づいた協議はしていない」、熊本県漁連は「担当者が不在で対応できない」と答えた。

 長崎地裁は今年1月、基金案をベースにした新たな和解勧告を示した。国と開門阻止派の営農者側は受け入れ、開門派の漁業者側は拒否したため、地裁は基金案と並行して、開門を含めた協議を提案している。

■漁業者側「けしからん」 「立場利用し強制」不信感

 和解協議が大詰めを迎える中、農林水産省が漁業団体の意思決定を操作するような行為が8日、明らかになった。開門を求める漁業者を説得するため漁業団体幹部に提示した想定問答。開門派の漁業者側弁護団からは「けしからん」と強く批判する声が上がった。

 「基金案を押し通し、漁協幹部を屈服させ、開門を求める漁業者をだまらせようとするひどい態度だ」。漁業者側の馬奈木昭雄弁護団長は、トップへの一任を促すなど、漁業団体の内部にまで踏み込んだ想定問答を厳しく非難した。

 漁業者側は7日に提出した意見書で、基金案の議論を続ける条件として、国に対し「訴訟当事者ではない漁業団体、自治体に不安や混乱を持ち込むべきではない」とくぎを刺し、圧力をけん制したばかり。15日には農水省との交渉があり、馬奈木弁護士は「厳しく追及する」と力を込めた。

 ある漁業団体幹部は、想定問答の存在は知らされていなかったとした上で「有明海再生でいろいろ国にお願いする必要があり、漁業団体は強硬な反対論で対峙(たいじ)できない事情もある。立場を利用した強制のようなものを感じる」と国への不信感を募らせた。

 開門派の原告で漁業者の大鋸武浩さん(47)=藤津郡太良町=は「福岡と熊本が基金受け入れに傾いた裏ではやっぱりこういうことがあったんだなと、疑いが確信に変わった」とあきれる。「手段を選ばずに、何が何でも開門調査は避けたいという国の本音が透けて見える」と指摘した。

 一方、開門阻止派の山下俊夫弁護団長は取材に対し「事実関係を確認できておらず、コメントしようがない」と話した。

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