仕事始めがすぎ、新しい年が本格的に始まった。張り切って職場や学校に向かった人もいれば、どうにも気分が乗らない人もいただろう。それぞれの気分は、おのずと足元に出てしまう◆“日本一忙しい靴磨き”と呼ばれた井上源太郎さんは「すきっとしたスーツを着てる人のは一分の隙もないように磨き立てるし、カジュアルなジャンパーの人のはちょっと粋な感じにするんだ」と語っていたという。(野地秩嘉(のじつねよし)著『サービスの達人たち』)◆最近は街頭の靴磨きはほとんど見かけなくなったが、東京ではハンチング帽をかぶり、蝶(ちょう)ネクタイをしたおしゃれな靴磨き職人に行列ができている。趣味として自宅で靴の手入れをするのも流行(はや)っているらしく、雑貨店の店頭では解説本や靴磨き道具のセットも目に付く◆禅に「脚下照顧(きゃっかしょうこ)」という言葉があるそうだ。自分の足元を見つめよ、という意味らしい。曹洞宗の僧侶で、庭園デザイナーの枡野俊明(ますのしゅんみょう)さんが書いていた。「自分の足元が見えていない人は、自分自身が見えていない、ひいては、人生の行く先も見えていないということです」「靴を揃(そろ)えるのは、次に踏み出す一歩のためでもあるのです」と◆しっかり磨いた靴を玄関にそろえておいて、軽やかに歩き出そう、何気ない日常のひとつひとつを大切にしよう。そう思う年の始めである。(史)

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