親が育てられない赤ちゃんを匿名で預け入れる国内唯一の施設「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)は10日、運用開始から10年となった。構想段階から賛否を巡る論争が続く中、2015年度までの9年間に125人の命が託された。

 設置している慈恵病院(熊本市)の蓮田太二理事長は9日、市内で記者会見し「(妊娠・出産を)人に知られたくない人に、安心して赤ちゃんを預けてもらいたいと思って始めた。赤ちゃんの命を守るという点で役目を果たせた」と述べた。

 運用開始は07年5月10日。捨てられる命を救うとの理念に対し、安易な育児放棄を懸念する声が出た。第1次政権当時の安倍晋三首相が「大変抵抗を感じる」と述べるなど、国も距離を置いた。

 市の検証報告書によると、125人は、生後1カ月未満の新生児104人、1年未満の乳児14人、1年以上の幼児7人の男女。父母らの居住地は、北海道1人、東北3人、関東22人、中部11人、近畿10人、中国8人、四国1人、九州39人、国外1人、不明29人。預け入れは近年、年10人程度で推移し、虐待が疑われるケースはなかったが、29人は治療が必要だった。

 預けた理由(複数回答)は多い順に「生活困窮」32件、「未婚」27件、「世間体・戸籍」24件など。母親の年齢では20代が36%と最も多い。30代が約22%と続き、10代も12%と少なくない。

 預け入れ後の行き先は、13年度末時点の101人の調査で、乳児院など施設30人、特別養子縁組29人、里親19人、元の家庭18人、その他5人だった。【共同】

 2月には神戸市の助産院による後に続く動きが明らかになったが、同市が求めた医師の常駐が難しく、見送られた。

 慈恵病院は24時間体制の妊娠相談にも力を入れ、16年度の件数は予期せぬ妊娠など6565件と過去最多。07年度からの10年間で、相談から294件の特別養子縁組につながった。

■医療施設外の出産46%

 熊本市の慈恵病院の「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)に、2015年度までの9年間に預けられた125人の出産場所が、医療施設ではないケースは、少なくとも約46%に上る。専門家は「妊娠を誰にも知られたくない、明かせない人が多いのではないか」と指摘する。

 市の検証報告書によると、出産場所は、病院や助産院といった医療施設が推測分を含めて56件と最多だったが、自宅53件、車中4件もあった。父母に接触できないなど不明のケースも12件あり、医療施設外での出産は、より多い可能性がある。

 医療施設外での出産理由は「経済的理由で病院を受診しなかった」「家族に相談できなかった」など。中には、自分で出産後の処置をし、へその緒をはさみで切ったケースもあった。自宅出産のほとんどは妊婦健診を未受診で、母子手帳の交付を受けておらず、行政が存在を把握しきれなかったとみられる。

 厚生労働省によると、近年では医療施設外での出産は全国で0・2%程度にとどまり、ゆりかごの利用者の多さが際立っている。

 白井千晶静岡大教授(家族社会学)は「自宅で出産し、やっとの思いでゆりかごに子どもを預け入れるという現状は社会にも責任があると感じる。国や自治体は初回の妊娠検査を無償にしたり、補助したりするなど支援すべきだ」と説いた。

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