やむを得ない措置だろう。韓国・釜山の日本総領事館前に新たな少女像が設置されたのを受けて、日本政府は長嶺安政駐韓大使らの一時帰国を決めた。

 日韓両国が一昨年末の日韓合意に沿って、慰安婦問題の最終的な解決に向けて歩み出していただけに非常に残念である。

 日韓合意は「最終的かつ不可逆的解決」であり、日韓双方がそれぞれにどのような行動をとるかを取り決めていた。具体的には日本側は、軍の関与と政府の責任を認めた上で、韓国が設立する元慰安婦の支援財団に10億円を拠出する。これに対して、韓国側は、ソウルの日本大使館前に設置された少女像を「適切に解決するよう努力する」としていた。

 すでに日本側は10億円を拠出しており、合意時点で存命だった元慰安婦46人のうち、34人が現金支給を受け入れている。

 ところが、合意から1年が過ぎても、韓国側はソウルの少女像を撤去しなかった。そればかりか、昨年末には新たな像を釜山の日本総領事館前に設置した。しかも、韓国外務省は「外交公館の保護に関する国際儀礼や慣行の面からも考える必要がある」としただけで黙認してしまった。

 なぜ黙認したのか、まったく理解できない。現在の韓国国内の政治状況を見ると、朴槿恵(パククネ)大統領がスキャンダルで職務停止になり、機能不全に陥っている。その事情を考え合わせたとしても、ようやくまとめた日韓合意が水の泡になるとは思わないのだろうか。

 韓国の各種世論調査では、日韓合意に否定的な意見が大半を占めている。こうした世論をおもんぱかって少女像の設置を認めたのかもしれないが、これでは第3、第4の少女像を設けようとする動きが出かねない。

 日韓関係へ悪影響を及ぼすだけではない。いったん国と国の間で決めた合意をほごにするようでは、韓国は国際的な信用を失うだろう。

 今回、日本は駐韓大使と森本康敬釜山総領事の一時帰国のほか、金融危機が起きたときに、互いにドルを融通し合う「通貨交換(スワップ)協定」の再開に向けた協議を中断し、経済協力を次官級で話し合う「日韓ハイレベル経済協議」の延期も決めた。

 韓国政府は「困難な問題があっても、両政府間の信頼関係を基に韓日関係を持続的に発展させていかなければならない」としたが、ボールは韓国側にある。求められているのは行動なのだと自覚すべきではないか。

 今、東アジア情勢は緊迫の度を増している。核・ミサイル開発に突き進む北朝鮮が地域の安定を脅かしているからだ。日本が韓国への対抗措置を発表したのとほぼ同じタイミングで、米ニューヨークでは日米韓による外務次官協議が開かれ、朝鮮半島情勢を話し合っていた。北朝鮮の脅威にどう立ち向かうか、日韓の利害は一致しているはずだ。

 日韓は歴史的にも文化的にも関わりが深い隣国であり、両国関係は東アジアの礎のはずだ。韓国政府には日本側の懸念を受け止めて、誠実に行動してもらいたい。将来世代に負の遺産を引き継がせないという、日韓合意の精神に立ち返り、しっかりと対応するよう求めたい。(古賀史生)

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