摘んだイチゴのケーキにサクランボのジャム、桃のコンポート、土鍋でことこと煮込んだビーフシチュー…。生つばを誘う手料理がふんだんに登場する。佐賀市のシアターシエマで公開中のドキュメンタリー映画「人生フルーツ」。老境の建築家の夫とその妻の「スローライフ」が描かれ、幸せとは何かを気づかせてくれる◆外食してほしくない孫娘に、夫妻は畑の作物や自家製の梅干し、煮物などをせっせと送る。「40、50歳になると、おばあちゃんが作ったものが懐かしくなると思うよ」と。なるほど、味覚は深く記憶に沈み、手作りのものが伝える愛情が残る◆世間の食の事情はどうだろう。総務省によると、家計の支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」が昨年は25・8%と29年ぶりの高水準となった。食品価格の上昇もあるが、総菜などの「中食」や外食をする層が増えたのが一因◆共働きやお年寄り世帯が、それらをうまく取り入れている世相を映し、進む傾向にある。1日3食、一生に食す回数は80歳まで数えても8万7600食と気が遠くなりそうだ。囲む食卓に漂う幸せな空気がごちそうになる◆食べるばかりが役どころのわが身だが、せめて感謝の心でいただきたいもの。くだんの夫の「おいしいよ」の言葉には愛情があふれ、人生を豊かにするヒントがあった。(章)

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