米国で映画化され、今年話題を呼んだ作家遠藤周作(1923~96年)の代表作『沈黙』。江戸時代、幕府による苛烈なキリシタン弾圧の中、日本に潜入したポルトガル人司祭の苦悩を描いた小説だ◆赦(ゆる)しの神に「母なるもの」を見いだし、それが日本の宗教の本質であることを提示した。そこには作家自身の育ちが投影されている。遠藤の母は夫と離婚後、苦しさを信仰で慰めるほかなかったという。彼も母に従い、12歳で洗礼を受けている。以来、神と人間との関係を生涯、追い求めた◆「お前には一つだけいいところがある。それは文章を書いたり、話をするのが上手だから、小説家になったらいい」-。少年時代、劣等生で悩む遠藤に、母はそう励ましてくれたと随筆に書いている。やがては自分の好きなことで、人生に立ち向かえると教えてくれた母。どんなにか心強かったろう◆初めは本当の信仰心などなかったという遠藤だが、母の愛とキリスト教は一生を規定した。書斎の机に、いつも母の写真を飾っていたエピソードがそれを物語る◆世の男性は、多かれ少なかれマザコンだといわれるが、どうだろう。私事ながら、亡き母が読書の楽しみを教えてくれた恩を思う。「お母さん、ありがとう」。あふれる気持ちがある。きょうは「母の日」。感謝しすぎるということはない。(章)

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