就任前から騒動が続く。今月20日に米大統領となるトランプ氏だ。選挙の時から奔放な発言は問題となっていたが、今度は企業に対する名指しの批判が始まった。まだ私人にすぎないと考えているのかもしれないが、その発言が世界経済に動揺を与えていることをもっと自覚すべきだろう。

 トランプ氏のやり玉に挙げられているのが自動車メーカーだ。人件費が安く、経済協定上、関税なしで米国に輸出できる隣国メキシコに生産拠点を置く企業が増えていることに「とんでもない。米国に工場を造るか、巨額の関税を払うかだ」とツイッターで息巻いている。

 名指しで批判された米大手フォードがメキシコでの新工場計画を断念し、日本のトヨタ自動車は新工場建設を次期大統領に認めてもらおうと、今後5年間で100億ドル(約1兆1600億円)を米国に投資する方針を打ち出した。

 トヨタは現在、米国内で13万6千人を雇用し、メキシコ新工場も米国から生産拠点を移すものではない。十分に調べることなく発言するトランプ氏に反論したい思いはあるのだろうが、新しい権力者とやり合うのは賢くないという経営上の判断なのだろう。

 多国籍企業にとって、巨大な米国市場抜きにビジネスはできない。欧州のフィアット・クライスラーは批判される前に先手を打って、米国内で雇用を増やす考えを打ち出し、トランプ氏から感謝の言葉を受けている。

 トランプ氏の「アメリカ第一主義」に多くの企業が右倣えし、米国への巨額投資を約束する姿は“新王朝”に貢ぎ物をしているようにも見える。その発言が正しいから従うのではなく、その権力を恐れ、従っている。

 しかし、自由経済のリーダーがとるべき言動なのだろうか。トランプ氏が指摘するように、グローバル経済は多くの問題を抱えている。企業の国外流出に伴う産業の空洞化は失業率の上昇や低賃金化を招いている。

 ただ、関税障壁を減らし、自由貿易を進めることが世界の豊かさにつながるとグローバル化を押し進めたのは米国だ。国として経済政策を検証することもなく、自国にだけ有利な保護主義に急転換するのであれば、国際経済が大混乱してしまう。

 何より、特定企業をねらい打ちして大幅な関税引き上げを実行すれば、WTO(世界貿易機関)協定違反となる可能性が大きい。

 米国は世界一の軍事大国でもある。対抗措置をとることができる国はほとんどなく、トランプ氏の言葉は大国による恫喝(どうかつ)と受け止められる。多国間での環太平洋連携協定(TPP)を離脱し、2国間の経済交渉を進める考えを示しているが、トランプ氏の言動を見る限り、相手国は対等な交渉を望むのは難しいのではないか。

 これがトランプ外交の始まりだと考えると気が重い。彼が好むツイッターは文字数に限りがあり、丁寧な説明より、インパクトのある短い言葉が響く。ツイッターでの発言が続けば、経済以外でも、トランプ氏の感情で国際政治が左右されることになりかねない。

 大統領就任まで、もう少し時間がある。自らの影響力を自覚し、地位にあった言葉を選ぶように修正を求めたい。(日高勉)

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