まさに一晩で「チェンジ」してしまった。「民主主義の維持には、相違を超えて結束することが重要だ」と国民に訴えたオバマ大統領の退任演説は、翌日のトランプ氏の奔放な会見で、その余韻もかき消された。何事も「米国の利益最優先」を唱える新大統領がまもなく誕生する。民主主義のリーダー国はどう変わるのか。

 トランプ氏は大統領選挙後初めてとなる記者会見で、「生産拠点を国外に移す企業には高い関税をかける」というツイッターでの発言を繰り返した。批判の矛先も自動車メーカーだけでなく、製薬産業も加わった。

 米国内で雇用を増やすことで支持率を高め、政権浮揚を図る狙いを感じる。経済の保護主義はもう既定路線なのだろう。そのためには、企業への恫喝(どうかつ)まがいの発言もおかまいなしのようだ。

 もちろん、実行すれば、WTO(世界貿易機関)協定違反になるだろう。その批判に「WTOはひどい。脱退もありうる」と選挙戦で反論した。米国第一主義の前にはどんな国際ルールも無意味というつもりか。ただ、世界経済のリーダーとしては無責任過ぎる。

 会見では、安い人件費で製造して米国に輸出を続ける中国やメキシコを批判したが、貿易不均衡への言及の際に日本の名前も挙がった。次期駐日大使が元投資会社経営者であることも考えれば、日本は今後の経済交渉でシビアな要求を突きつけられる可能性が高いことも覚悟すべきだろう。

 ロシアとの異様な距離感も感じられた。自国の大統領選にサイバー攻撃を仕掛けられたのなら、選挙への不法な干渉に怒りを示すべきだろうが、「民主党側の甘さ」に問題をすり替えた。

 「トランプ氏はロシアの諜報機関に弱みを握られている」という報道もある。実際に真実味を感じるほどの擁護ぶりだ。冷戦終結後、米ロ両国の関係が良好な時期はあったが、今回はロシアのペースで進んでいるように見える点で、決定的に異なる。

 日本はロシアと北方領土返還交渉を進めているが、米ロの急接近で、ロシアから妥協を引き出すのは難しくなったかもしれない。

 トランプ氏は米国優先の考え方から、「世界の警察官をやめる」と選挙で語っていた。ただ、必ずしも紛争不介入の方針ではないらしい。会見でも「ロシアとは過激派組織イスラム国(IS)打倒で協力できる」と強調した。

 また、次期国務長官のティラーソン氏が別の場で、南シナ海など中国の海洋進出に強い警戒感を示し、尖閣諸島問題では「日本を防衛する方針を引き継ぐ」と言明している。米中関係の緊迫化も今後は起こりうる。

 過激な言動は選挙向けのポーズという見方もあったが、就任直前の会見で全く改まっていなかった。自身を批判したり、不都合な記事を書いた記者を敵視した。批判は受け付けないという姿勢なのだろう。政治家が説明責任を果たさなければ、民主主義が後退してしまうことへの理解が足りない。

 オバマ大統領が政治の理想を追い続けたのに対し、トランプ氏は実利をどん欲に求める。ビジネスの世界はそれで成功を続けたのかもしれないが、政治は敗者を生まない調整が必要だ。そのことに早く気づいてほしい。(日高勉)

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