<われつひに六十九歳の翁(おきな)にて機嫌よき日は納豆など食(は)む>。歌人の斎藤茂吉(1882~1953年)が、亡くなる1年前に詠んだ一首である。茂吉のウナギ好きは有名だが、納豆にもこだわった。育った山形県は納豆を最も好む地域の一つ。21首の納豆の歌を残し、最晩年まで愛したことがうかがえる◆納豆はアジアの稲作地帯では一般的な発酵食品である。中尾佐助氏の『料理の起源』によると、ヒマラヤのキネマ、インドネシアのテンペ、日本の納豆を結ぶ三角形の地帯に、同じような食品が広く分布する。中国・雲南あたりを中心にした照葉樹林文化の一環をなす◆納豆は、粘りのない塩辛納豆と、糸引き納豆の二つの系統に分かれる。前者は中国から奈良時代には入っていたようだ。糸引き納豆の起源は定かではないが、中尾氏はインドネシアから伝わった可能性も指摘している。醤油(しょうゆ)で納豆を食べるようになったのは江戸後期からで、それまでは味噌(みそ)仕立ての納豆汁だった◆佐賀の白石町には「しろいしテンペ」がある。転作大豆を活用した粘りのない発酵食品で、1990年代に商品化。町内の加工場で作られ給食にも用いられている◆「良い食は良い体をつくる」。折しも佐賀平野では、大豆の種まきの真っ最中だ。きょうは「納豆の日」。日本人の食の知恵をかみしめたい。(章)

このエントリーをはてなブックマークに追加