国営諫早湾干拓事業(長崎県)の和解協議で国が示した総額100億円の基金案への対応が、佐賀、福岡、熊本の3県漁協・漁連で分かれた。福岡、熊本が基金案を受け入れるのに対して、佐賀だけが拒否する方針を決めた。

 なぜ、対応が分かれたのか。

 今回、国が示した「有明海振興基金(仮称)」は長崎地裁で進む和解協議の柱で、潮受け堤防の開門はしない代わりに総額100億円をかけて有明海再生のための事業を行うとしている。

 最大のポイントは「開門はしない」という前提にある。今回の和解案には最初から、漁業者が求めてきた「開門して有明海再生を目指す」という選択肢は準備されてはいない。言い換えれば、開門をあきらめて100億円の基金を手にするかどうか、と“二者択一”で迫ったわけだ。

 福岡、熊本の漁連が受け入れを決めた背景には、潮受け堤防の水門閉め切りから20年近く活動してきたにもかかわらず、開門の糸口さえ見えないという事情が大きい。この間、廃業に追い込まれる漁業者も多く、これ以上長引くのは耐えられないと考えたのだろう。

 ただ、指摘しておきたいのは、受け入れを決めた福岡、熊本の漁連を含めて、漁業団体はいずれも裁判の直接の当事者ではないという点である。

 それぞれの漁業団体が基金への諾否を示すことになったのは、基金を管理・運営するために設ける一般社団法人を、佐賀県など4県とともに担うからだ。つまり、今回の判断は、一般社団法人のメンバーとして参加する意思があるかどうかであり、和解するかどうかが問われたわけではない。

 裁判の当事者ではない漁業団体まで巻き込む、国のやり方には首をかしげざるを得ない。これでは、一枚岩で歩んできた漁業者の分断を誘いたかったのではないか、と勘ぐりたくもなる。

 国は漁業者の一角を切り崩したつもりかもしれないが、逆に解決が遠のくのではないか。あくまでも本筋は、裁判の当事者の間で決まるからだ。開門派の弁護団は当初から、「開門しない」前提は受け入れられないと主張し続けており、事態は何ら変わっていない。

 12日の協議で3県漁協・漁連の足並みが乱れたのを見て、翌日にはたたみかけるように、農水省幹部が佐賀県の山口祥義知事を訪問した。基金案を受け入れるよう外堀から埋めていく思惑が透けて、こうした動きはますます不信感を招くだけだろう。

 17日には次の和解協議が開かれるが、この基金案はもはや破綻している。裁判所は「開門しない」前提を撤回し、改めて「開門する」という選択肢を含めた和解案を出し直してはどうか。

 このまま、開門を求める漁業者が根負けするまで長引かせ、開門しないという決着に持ち込むのは許されない。すでに開門を命じた福岡高裁判決が確定しており、これが守られないようでは、「法治国家」とは呼べはしない。

 佐賀に住む者にとって有明海はまさに宝の海であり、その再生をあきらめるわけにはいかない。国はもう一度、有明海を再生するための手だてを検討し、漁業者との和解協議を仕切り直すよう求めたい。(古賀史生)

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