<世界にただ一つ遺(のこ)されている/神秘な地帯に/いま、一條(いちじょう)の光が入った>。シルクロードに魅せられた作家の井上靖は、あこがれの地に足を踏み入れた感激を、そう詩集に記している◆シルクロードは、古(いにしえ)からアジアで織りなされた交流の歴史を刻んだ。その終着地といわれる沖ノ島(福岡県)。4~9世紀、大陸への航海の安全を願う国家的祭祀(さいし)が行われた。朝鮮半島や中国、中東由来の金銀の指輪や鏡、カットグラス片などの奉献品が数多く出土した。絹の道の痕跡をとどめる◆島そのものがご神体と崇(あが)められているこの古代遺跡が、世界文化遺産に登録されることになった。日本古来の信仰の原風景があり、考古学的価値が高いことが受け入れられ評価された。神宿る島が「世界の宝」と認められたことは喜ばしい◆しかし、懸念がないわけではない。沖ノ島は数々の禁忌に保護されてきた。通常、神職しか立ち入りは許されず、一木一草一石たりとも持ち帰れない。女人禁制。それは世界遺産になっても変わらない◆登録により、こうした特殊性が浮き彫りになるだろうが、いかに認識してもらうかである。そこは推薦の全構成資産が一括登録されたことが助けになろう。本土側の遺産には人を呼び、沖ノ島は静かに守り抜く。単なる遺跡ではなく、今も息づいている島だからである。(章)

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