国営諫早湾干拓事業の潮受け堤防開門問題で、海上デモをする反対派の漁業者=3日、長崎県諫早市

 国営諫早湾干拓事業(長崎県)の潮受け堤防の開門問題で、国が開門に代わる措置として示した100億円の基金案による和解が頓挫する見通しとなった。有明海沿岸4県の漁業団体のうち、福岡、長崎、熊本は賛成したが、佐賀は拒否。基金を実現させて一気に決着を図りたかった国の思惑は外れ、開門問題は再び暗礁に乗り上げそうだ。【共同】

 ◆共闘崩れる

 「3県で同じ回答を目指せないか何度も調整してきたが、意見に違いがあった。苦渋の決断だ」。福岡、佐賀、熊本の漁業団体が基金案への対応を最終確認した12日の会合。唯一、反対を決めた佐賀県有明海漁協の徳永重昭組合長は、険しい表情を崩さなかった。

 3県はこれまで一貫して開門を求めて共闘してきた経緯がある。賛成に回った福岡、熊本も「開門は必要との立場は変わらない」と強調しつつ、福岡有明海漁連の西田晴征会長は「有明海の再生は待ったなしだ。年に約30のノリ養殖業者が廃業している。このまま膠着(こうちゃく)していたらどうなるか」と苦しさをにじませた。

 国が長崎地裁の和解協議に漁業振興のための基金創設を提案したのは昨年5月。開門しない前提の基金案に漁業者側弁護団は猛反発し、当初から難航が予想された。

 国が交渉相手として狙いを付けたのが、訴訟の当事者ではない漁業団体だった。基金の運営主体として想定し、その容認を取り付けることで、強硬な弁護団の外堀を埋めて和解に持ち込む戦略が透けていた。政府関係者は「受け入れでそろえば、弁護団も認めざるをえない」と語っていた。

 ◆二者択一

 実際「基金か、開門か」の二者択一を迫られた漁業団体は大きく揺れた。「開門も基金も共倒れになっては元も子もない」「今後100億もらえる機会はない。乗った方がいい」。漁業関係者からは現実的な選択が口々にこぼれた。

 国側も切り崩しに動く。農林水産省の担当者は漁業団体に頭を下げて回り、地元の国会議員から電話で説得された漁連幹部もいた。「このままでは漁業者が引き裂かれる。同じ海を抱える者同士でいさかいたくない」。開門派が分断されていく状況に悩み、体調を崩す幹部も出た。

 「ギロチン」と呼ばれた1997年の堤防閉め切りから20年。この間、有明海では養殖ノリの色落ちなど深刻な不作に見舞われた。国などは対策事業として、これまでに約433億円をつぎ込んだが、再生は道半ばで、佐賀では高級二枚貝タイラギが5季連続で休漁している。

 ◆糸口見えず

 佐賀の「拒否」を受けて、弁護団は基金案に関する協議打ち切りを求める方針だ。解決の糸口が見当たらない中、和解協議が決裂すれば、訴訟は判決へと進んでいく。

 だが、今回の訴訟の結論が「開門禁止」であったとしても、2010年に確定した福岡高裁の「開門命令」判決は生き続けることになる。弁護団の馬奈木昭雄団長は「国が確定判決に従い、開門すれば解決する」と譲らない構えで、司法による全面解決の道は極めて細い。

=ズーム= 国営諫早湾干拓事業

 有明海の諫早湾で農地確保と低地の高潮対策などを目的とした農林水産省の事業。全長約7キロの潮受け堤防で湾を閉め切り、約670ヘクタールの農地と、農業用水を供給する調整池約2600ヘクタールを整備した。総事業費は約2530億円。1986年に事業に着手、97年に堤防を閉め切り2008年に本格的に営農が始まった。閉め切りが漁業不振を招いたとして漁業者が開門を要求。国などは養殖技術の開発や環境調査をするため、02年度から漁場改善事業を始め、これまでに総額約433億円が拠出された。営農者は塩害への懸念などから開門しないよう求めている。

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