「力強く濃い線」を心掛け、筆先に集中する藤本秀一郎さん。「目が肥えた人が多く、気が抜けない」作業が続く=有田町の柿右衛門窯

柿右衛門窯の見本通りに仕上げるため、絵の具を摺る量にも心を配る

 柿右衛門窯に入って37年。上絵一筋に続けてきた。今の仕事の絵の具は赤と黒の2色が基本。赤で咲き誇る花を表現し、黒で枝を生き生きと描く。「最小限の線でいかに表現するか。そこが難しさでもあり、楽しさでもある」。リアルさを追い求め、筆先に集中する。

 仕事の中で「日ごろのスケッチの大切さ」を改めてかみしめている。先輩たちの教えもあり、時間を見つけては自宅の庭や野山でスケッチ帳を開く。木の実の付き方や葉の反り返り方などを観察し、写し取る。「実のそばの木の皮の様子など、じっくり見ることで発見がある。写真を見るだけでは分からない」と力を込める。

 一つの花の堅いつぼみの時から散るまでを、上からや真横、下からなどさまざまな角度で描いたこともある。「『描けません』では済まされない。どんな注文にも対応できるのが職人」。先を読んだ準備を心掛ける。

 スケッチ帳は常に机のそばに置き、描くときの参考にする。ただ、スケッチをそのまま描き写すわけではない。不要な部分を切り取り、すっきりとした表現で本物以上の本物らしさを心掛ける。そのためにも大切にするのが「細くても濃い線」だ。「弱々しい線だったら何度も描き足さなければならない。太いだけなら草花の表情が出ない。繊細さと力強さを両立させなければならない」と語る。

 窯では見本通りに作るのが基本。20個なら20個同じ色に仕上げるため、絵の具を摺(す)る量にも心を配る。梅雨時や夏場は気温や湿度の関係で、時間とともに発色が違ってくる。「ぱっと見ただけでは分からないような微細な違いかもしれない」と言いながらも、「目が肥えたお客さまは多いし、何より自分の目が感じてしまう」と妥協を許さない。

 有田を代表する窯に入り、先人たちが磨き上げた技の重みを感じる。「先輩たちの目や腕と比べたら自分はまだまだ。これからも成長しなければならない」。後輩たちには「真剣に仕事に向かう姿勢を伝えたい」と思っている。「腕の立つ仲間に囲まれ、修業するにはいい場所。自分たちが勉強する姿を見せることで若手に努力する大切さを知ってもらいたい」。窯の伝統を次代に引き継いでいく。

 ふじもと・しゅういちろう 1960年有田町生まれ。80年有田工業高定時制窯業科卒。同年柿右衛門窯入社。96年伝統工芸士(上絵付け)認定。勤務先=柿右衛門窯、有田町南山丁352。電話0955(43)2267。

=伊万里・有田焼伝統工芸士 400年を支えて=

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