「さんま、さんま/そが上に青き蜜柑(みかん)の酸(す)をしたたらせて/さんまを食ふはその男がふる里のならひなり」-。青き蜜柑は、まだ青い温州ミカンを絞ったものとか。サンマの焼けた脂の匂いまで伝わってくるようで、食欲をそそる。佐藤春夫の詩『秋刀魚(さんま)の歌』である◆今週、北海道であったサンマの初競りで、1キロ40万円の値がついたというニュースに驚いた。初物のご祝儀相場とはいえ、たった7匹でこの値段。1匹当たり5万7千円というから、ずいぶん気前がいい。これも景気が回復した表れかと思ったら、ちょっと事情が違うようだ◆乱獲が進み、サンマそのものが枯渇しかねないのだという。中国の漁獲高は、たった3年で20倍以上も伸びた。乱獲に加えて、地球温暖化を背景にした海流の変化なども指摘されており、深刻な不漁が心配されている。きのう札幌市で始まった漁業管理の国際会議。日本は漁獲枠を設けるよう提案したが、果たしてまとめきれるだろうか◆佐藤の詩はサンマのくだりで生唾(つば)がわくが、実は気楽な内容ではない。「今日の夕餉(ゆうげ)に ひとり/さんまを食(くら)ひて/思ひにふける と」。妻に去られた男の独白で「さんま苦いか塩(しょ)っぱいか」と続く◆サンマは時にほろ苦く、人々と哀歓をともにしてきた。願わくは、これから先も庶民の味覚であり続けますよう。(史)

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