電子顕微鏡写真をもとにした薬剤耐性菌のイメージ(米疾病対策センター/James Archer氏提供)

 家畜の成長を促進させるため、飼料に混ぜて使うことが認められているコリスチンなど2種類の抗菌薬について、薬の効かない薬剤耐性菌が発生し、人の健康に悪影響が出るリスクが無視できないとして、農林水産省が飼料添加物としての指定を取り消し、使用を禁止する方針を固めたことが13日、分かった。

 耐性菌による死者は、世界で年間70万人に上るとの試算もあり、2016年の伊勢志摩サミットで各国は原因となる抗菌薬の適切な使用を進めることに合意した。日本での禁止は合意後初めて。抗菌薬を健康な牛や豚、鶏の餌に少量加えて与えると、成長が早くなることがある。はっきりとしたメカニズムは分かっていないが、国内外ではこうした成長促進目的の利用が認められてきた。だが最近は、使い過ぎで耐性菌が生まれ、食品や環境を介して人にも広がる懸念が指摘され、欧州を中心に禁止する動きが広がっている。

 今回、取り消すのはコリスチンとバージニアマイシンの2種。審議会での検討を経て、本年度中にも正式に決める。コリスチンは人や家畜の感染症治療薬としても承認されており、治療目的の使用は引き続き認める。食品安全委員会は農水省の検討に先立ち、家畜に抗菌薬を与えた場合のリスク評価を実施。いずれの薬剤も家畜の体内で耐性菌ができる恐れがあるとした。耐性菌が人に感染すると、抗菌薬治療を受けても効果が弱まる可能性が否定できないなど、中程度のリスクがある。

 添加物として国内に流通するコリスチンの量は、15年度で約23トン。国が流通量を把握している中では全体の12%を占める。バージニアマイシンはゼロだった。同省は畜産農家への影響が小さくなるよう、代替物の開発などを進めたいとしている。

 コリスチンは多剤耐性菌に感染した患者を治療する際、医師が頼りにする「最後のとりで」として使われている。だが既に人の体内から耐性菌が見つかり、近い将来、あらゆる抗菌薬が効かない細菌が出現するのではないかとの懸念が出ている。【共同】

■薬剤耐性菌 薬剤耐性菌 遺伝子の変化により、抗菌薬が効かなくなったり、効果が弱くなったりした細菌。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)やカルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CRE)などが知られる。人や動物への抗菌薬の使い過ぎによって世界的に拡大しており、放置すれば2050年に年間1000万人が耐性菌によって死亡するとの予測もある。世界保健機関(WHO)は今年2月、新薬の開発が早急に必要な耐性菌のリストを公表。特に抗菌薬カルバペネムに耐性を持つ菌は特に緊急性が高いとしている。

■動物から人への広がりも

 動物用に販売される抗菌薬の量は、添加物と医薬品を合わせると国内全体の約6割を占め、人の医薬品を大きく上回る。動物への使用で現れた薬剤耐性菌が人に伝わった例も報告されており、拡大を防ぐため、動物も含めた総合的な対策を進めることが重要だ。

 耐性菌は自然の状態でも一定の割合で発生するが、抗菌薬を安易に使うと普通の細菌が死に絶え、耐性菌のみが生き残って増えやすくなる。

 国内では1980年代以降、免疫が低下した重症患者が多い病院での感染が深刻な問題となってきたが、最近は中耳炎など、抗菌薬で簡単に治療できていたありふれた病気が、治りにくくなる例が増えている。

 動物への使用で人に影響が出た例には抗菌薬のバンコマイシンがある。院内感染などで問題になるメチシリン耐性黄色ブドウ球菌の治療に使われる重要な薬だが、似た構造を持つアボパルシンが、家畜の成長促進に使われたことが一因となり、耐性菌が発生。人にも広まったとされる。

 飼料添加物として認められている抗菌薬は2016年3月時点で23種類に上る。政府は耐性菌対策の行動計画で、人と動物の保健衛生を一体的に進めることを決めており、飼料添加物のリスク評価を順次進める。農林水産省は人への悪影響を減らすことを最優先として、リスクがあると評価された場合、原則として指定を取り消すとしている。【共同】

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