取材した一流アスリートたちの努力や苦悩を紹介する小松成美さん=鹿島市の割烹清川

ケーブルワン社長 大野 裕志さん

■「一流とは何か アスリートたちの真実」

 鳥栖政経セミナーと佐賀西部政経セミナーの例会が開かれ、ノンフィクション作家の小松成美氏が「一流とは何か アスリートたちの真実」と題して講演し、これまで取材してきたアスリートたちの知られざる苦悩や勝利に向かう姿勢を語った。講演要旨を紹介する。

■栄光1%、99%は苦しみ

 一流と呼ばれるアスリートと長い時間を共にしていると、私たちが普段、テレビで目にしている美しい栄光の瞬間が、彼らの人生のわずか1%ということを知る。残り99%はどういう時間なのか。まず、彼らは満身創痍(そうい)で、常に肉体を襲う痛みと闘っている。乳酸が全身に回って鼓動が早鐘のようになり、呼吸ができない時の痛みは、「このまま消えてなくなりたい」と思うほど。その痛みを乗り越え、彼らは記録や勝利を目指していく。

 もう一つは大きなプレッシャー。霊長類最強女子と呼ばれたレスリングの吉田沙保里選手が、リオ五輪出場を決め、日本で行った出陣式。その日に既に金メダルの祝勝会の日程が決まっており、大きな会場が押さえられている。その話を聞いて体が震えた。出場を喜んでいる善良な市民たちは金メダルだけを求める。選手は銀メダルを取った瞬間に敗者となり、謝らなければならなくなる。

 リオ五輪で4連覇を達成したレスリング女子の伊調馨選手。コーチなどたくさんの人たちが彼女を育んでいったが、中でも厳しかったのはお母さん。「死んでも勝ちなさい。勝たなければ帰ってくるな」といつも声を掛け、負けることを許さなかった。

 その母が2014年に亡くなり、伊調選手は部屋から出て来れなくなるほど落ち込んだが、ある時、部屋を出て父と姉にこう言ったそうです。「『何やってるの。今練習しなくてどうするの』とお母さんの声が耳の奥に聞こえた」。伊調選手はリオで天井を見て「お母さん、勝ちましたよ。だから家に帰りますよ」と言ったそうです。

 15年のワールドカップで活躍したラグビーの五郎丸歩選手は、インタビューで「不動の魂を得るために、自らのルーティンを確立する。それがこのワールドカップを戦うための日々だった」と語った。

 スポーツルーティンはメンタルに多大な影響をもたらし、パフォーマンスを向上させる技術。五郎丸選手は「ルーティンは精神を安定させ、上がることを抑えられる」と言っていた。私自身は執筆前に必ず広辞苑を一回開き、万年筆とメモ帳を同じ位置に置く。皆さんも自分のルーティンを確立してみてください。

 痛みや孤独、プレッシャーを受けてなお闘い、私たちを歓喜に巻き込んでくれるアスリートの存在。力強い声援をこれからも送ってほしい。

■講演を聞いて ケーブルワン社長 大野 裕志さん

 人は己の限界を自ら決めている。その限界をコーチや同僚、家族らに支えられながら、打ち破っていったアスリートたちの姿に学ぶところが多い話で、自らの戒めとしたい。これから一流アスリートたちの活躍をこうした一面を加味して見ていくことで、スポーツ観戦の楽しみも増すことだろう。

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