常時約800頭の豚を飼育する前田隆生さん。EPAによる先行きの不透明感に不安を覚えている=唐津市枝去木

■「価格で太刀打ちできない」 

 日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)の大枠合意を受け、佐賀県内の養豚業者や酪農家に不安が広がっている。関税引き下げや低関税の輸入枠設定により、欧州産の豚肉やチーズが大量に流入することが予想されるためだ。交渉の経緯がほとんど表に出ないまま大枠合意に達したことに、政府への不信の声も漏れる。

 「海外から大量に入ってきたら値段が下がる。価格競争では太刀打ちできない」。常時800頭の豚を飼育し、年間1600頭を出荷する唐津市枝去木の前田隆生さん(57)は危機感をあらわにする。

 JAグループ佐賀の養豚部会(15人)の副部会長。担い手の高齢化や後継者不足に加え、コストの7~8割を占める飼料価格の高止まりなどで、部会員は10年前の半数以下になっているという。

 生産するブランド豚「肥前さくらポーク」は餌に海藻類を混ぜるなど工夫し、「けもの臭さがなく、軟らかくてジューシー」と品質には自信を持つ。ただ、豚肉は牛肉などに比べて品質差が小さいとされ、「イベリコ豚」などスペインやデンマーク産の豚肉が安く流入すれば大きな脅威になる。

 2年半前から自宅に工房を設け、ハムやベーコン、ウインナーの加工や販売にも取り組むが、「新たな投資に慎重にならざるを得ない」と先行きを懸念する。

 さまざまな議論が重ねられた環太平洋連携協定(TPP)に比べ、EPAの大枠合意は関係者にとって唐突に映る。JA佐賀中央会の金原壽秀会長は「合意ありきの交渉」と批判、「十分な説明がなく、生産現場には大きな不安が広がっている」とコメントした。

 県は7日に対策本部を設置したものの、発効後の影響を把握するのは現状ではまだ難しく、県農政企画課は「国がどういう対策を出すか情報を注視し、対応していくしかない」と話す。

 低関税の輸入枠を設ける欧州産チーズなどへの対応として政府は14日、国産の乳製品ブランド化支援など国内対策の基本方針を決定した。ただ十分な効果が得られるかは未知数で、「国は自由化のたびに工業ばかりを優先し、1次産業を軽視してきた」。県酪農協議会会長の横尾文三さん(68)も不信感を募らせる。

 国産チーズに使う生乳のほとんどは北海道産。輸入チーズが増えれば、それが飲用向けに回り、価格低下を招く恐れがある。

 県内の酪農家は10年前の3分の1、30年前と比較すると10分の1に激減しており、県も本年度から振興策を始めたばかり。横尾さんは、日本の食料自給率の低さを危惧し、「安く買えればいいという考えだけでは国は滅びる。安全安心なものを自立して生産できる仕組みを整えてほしい」と注文する。

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