安倍晋三首相が衆院本会議で施政方針演説を行った。米国のトランプ新政権の発足をにらみ、外交戦略を軸に据える異例の内容だった。大きく変わりつつある国際社会の中で、日本はどのような役割を果たしていくのか。

 総じてスケールの大きな演説だった。これまで取り組んできた「地球儀を俯瞰(ふかん)する外交」に胸を張り、日本国憲法施行70年の節目に「次なる70年」を見据えた憲法改正への意欲を鮮明にした。

 安倍首相は自由、民主主義、人権、法の支配など、基本的な価値観を堅持し、中でも経済分野は「自由貿易の旗手」として「世界の真ん中でその責任を果たしていく」と、決意を語った。

 ぜひとも、そうあってもらいたい。「米国第一主義」を掲げるトランプ氏の登場で、世界的な保護主義の広がりも心配されている。自由貿易を守るために、日本が果たす役割は重みを増すだろう。

 一方で首相は、日米同盟を「不変の原則」と位置づけたが、この先、トランプ氏の外交戦略次第では同盟関係にひびが入る局面もありうるのではないか。

 これまでのトランプ氏の発言からは、貿易赤字を理由に日本を敵視する考え方が見て取れる。先日の記者会見でも、中国やメキシコと並べて、日本をやり玉に挙げていた。貿易問題に加えて、在日米軍のコスト負担の問題もある。

 日本としては、対等な同盟国として、主張すべきは主張し、安易に譲るべきではない。毅然(きぜん)と対応できるか、覚悟が試されよう。

 内政に目を向ければ、この国のかたちを決める大切なテーマが控えている。

 憲法改正論議と、天皇退位の問題である。安倍首相は「どのような国にしていくのか。その案を国民に提示するため、憲法審査会で議論を深めよう」と呼びかけた。そもそもなぜ改憲が必要なのかという時代認識を出発点に、丁寧な議論の積み重ねが求められる。

 天皇退位については、国民の多くが天皇陛下のご意向に沿った制度の整備を望んでいる。特別法による今回限りの制度とするか、皇室典範の改正による恒久的な制度にするか、与野党の開きは大きい。象徴天皇制の在り方も含めて、未来を見据えた結論を導き出すべきだ。

 いずれも拙速になってはならない。

 気がかりは、今回の施政方針演説からは「2020年度に基礎的財政収支を黒字化する財政健全化目標」が消えている点である。

 まさか、財政健全化をあきらめたわけではあるまい。2017年度予算案にしても、財政のタガが緩んでいる印象だ。もはやアベノミクスは行き詰まりつつある。アベノミクスを検証し、どう立て直すのか。首相の口から直接、国民に語るべきではないか。

 今回の演説からは、言葉の端々に首相の自信がのぞいたが、それがおごりになっては困る。野党をけん制する狙いだろうが、いたずらに挑発的なトーンも鼻についた。

 「新たな国造り」は、国民的な合意をいかにまとめあげていくかの過程でもある。言うまでもなく、結論に至る議論そのものに大きな意義がある。与野党ともに、正面から存分に議論を戦わせてもらいたい。(古賀史生)

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