「これは宝物だね」。見た人はみんな言うという。多久市出身の画家池田学さん(43)=米国在住=が、佐賀北高時代の恩師で洋画家の金子剛さん(77)へ送った年賀状である◆東京芸大1年時から12年かけて干支(えと)をペンで描いた。それも動物の顔が金子さんのパロディーになっている。「どこかに私の嫌らしさが出ているでしょ。常人の技じゃない」と金子さんは笑う。緻密だが、遊び心あふれたそのペン画に、師匠は今につながる源流を見る◆一本のペンの線から壮大な世界を描き出す池田さんの個展が、県立美術館で始まった。力みなぎる大作や金子さん宛ての年賀状も並ぶ。会場で絵の前からなかなか動けない人を多く見かけた。離れたり寄って見たりで、あまりにも印象が違うからだろう◆東日本大震災の衝撃から着想を得た新作「誕生」には過去、現在、未来が一枚の中に矛盾なく収まる。がれきの山、病で逝ってしまった親友、命を授かったわが子の名や両親の姿、けがを負った自身の再生、そして希望をつなぐ花々が咲き誇る。まるで日記を書くように織りなす妙がある。クスッと笑みがもれたり、ぐっとこみ上げてきたり…◆「魚や昆虫が好きだった。ものの見方、感じ方は子どものころの影響が強い」と池田さんは言う。それを生んだ多久の自然の力をも感じさせる展観だ。(章)

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