定期船を使った避難訓練に取り組む神集島の島民=2016年10月、唐津市神集島

■「漁船で逃げた方が早か」

 「船に乗って、それからまたバスに乗ってというのは…。ハンディのある人にはとても無理ね」。九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)から約10キロ離れた唐津市呼子町の離島・小川島。港へと延びる細い通り沿いの一軒家に住む女性(76)は、原発で重大事故が起きた場合の避難方法を不安げに語る。

 女性は「要介護3」の夫(78)と2人暮らし。認知症を患う夫は体が弱って歩くのもままらならなくなり、今月から島を離れ、市内の病院に入院した。女性自身も週2回デイサービスを利用する。「自分の身だけでも一生懸命。主人が退院して戻ってきたとき、原発で何かあったらどうすればいいのか」

 市内七つの離島で最多の383人(1月現在)が暮らし、75歳以上は100人を超える。緊急時の防災活動の中心となる消防団は漁業者が中心で、漁のため一斉に島を離れていることもあり得る。同様の不安を多くの高齢者世帯が抱える。

 玄海原発で重大事故時の広域避難計画は昨年12月、政府の原子力防災会議で了承された。市の避難計画では、七つの離島から海路で逃げる場合に原則、定期便の船を利用する。本土到着後はバスなどに乗って指定された避難所へ向かう。

 離島の定期船や周遊船を運航する佐賀県旅客船協会(10社)は昨年3月、佐賀県と災害時の協力に関する協定を結んだ。保有するのは15隻(定員898人)。「日頃から島民の生活航路として走っている。原発事故に限らず、自分たちが役に立つことがあれば協力するだけ」。中道清成会長(62)は、島民の命を預かる責任感を口にする。

 協会は昨年10月の原子力防災訓練で初めて、海保などとともに神集島から島外避難に加わった。ただ、「避難者」は訓練開始の予定時間の前に集合しており実態とは程遠い。

 定期船が出るのは年間被ばく線量が1ミリシーベルトを下回ってから。利用人数の把握や、避難の優先順位といった具体的なシミュレーションはできていない。波が高い冬場は船を出せない可能性も。中道会長は「どこまで待って、いつ船を出すのか、最後に判断するのは船長。事前に明確にしてほしい」と訴える。

 「放射能が来ているのに、じっとしていられるのか。自分の船で逃げた方が早か」。島の人たちからはそんな本音も漏れる。

 市は以前、漁船での避難も想定していたが、普段使わない港への係留が難しく、漁船の混雑が避難に影響するのを懸念し、現在の計画に見直した。市危機管理防災課の担当者は「バラバラになったら混乱するのでまとまって行動してほしい」としつつ、「漁船で逃げるなとも言えない」。

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