壱岐市内の漁協施設には「玄海原発再稼働 絶対反対」の看板が掲げてある=長崎県壱岐市勝本町

■壱岐全島避難、船で5日半

 唐津市の唐津東港からフェリーで1時間40分。長崎県壱岐市の印通寺港に降り立つと、漁協の建物に掲げられた「玄海原発再稼働 絶対反対」の看板が目に飛び込んでくる。九州電力玄海原発(東松浦郡玄海町)から半径30キロ圏に本島の南部が入り、人口約2万8千人の半数以上を占める約1万5千人が住む。白川博一市長はじめ、住民のほどんどが再稼働には反対の立場だ。

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 「例えばピストルの銃口を向けられたとき、50メートル離れていても見えていると怖い。それと同じで全ての市民が怖いと思っている」。白川市長は反対の理由をこう表現した。島で最も高い標高212メートルの岳ノ辻からは、海の向こうの原発の白い建物が見える。

 東京電力福島第1原発の事故前まで、島民の原発に対する関心は薄かった。今、再稼働に反対するのは、安全性への不安とともに、事故が起きれば主要産業の漁業や観光業に大きなダメージを受けるからだ。

 南端の初瀬漁港で漁師をする山本春喜さん(53)は、福島事故での国や電力会社の地元対応に怒りすら覚える。「今も福島の漁師は風評被害に苦しんでいるのに、補償や支援を十分に受けられんで泣きよるよ。向こうの現状を見たら、反対するのが本当やろうもん」

 壱岐市は九電が地元同意を必要とする自治体ではない。市は民意をどう反映させるか模索しつつ、重大事故に備えた避難計画策定に取り組む。計画では30キロ圏に入る南部の住民は、マイカーなどで北部に避難する。一方で市は、全住民による島外避難も計画する必要があると主張し、長崎県に協力を求めている。

 北端は原発から約40キロ。福島の事故では約30~50キロ離れた福島県飯舘村が全村避難となった。住民は、放射性物質が島に向かって拡散し、島内に逃げ場がなくなることを恐れている。白川市長は一本の線を引いて強調した。「30キロのラインがあって、こっちは危ない、こっちは大丈夫だとはならない。だから全島避難が必要になる」

 ただ、全島避難には、約2万8千人の移動手段や避難先をどう確保するかという難題が横たわる。長崎県の試算では、フェリーなどの客船7隻でピストン輸送し、全住民の避難が完了するまで5日半かかる。

 屋内退避施設の放射線防護対策も、他の30キロ圏の離島と比べて大幅に遅れている。整備する場所さえ決まっていない。長崎県危機管理課によると、人口が多いなどの理由で作業に手間取り、1カ所目が完成するのは早くても2年後という。

 南部にある特別養護老人ホーム「光の苑」の武原光志施設長(66)は問い掛ける。「福島の事故では、移動による心身への負担のリスクを考え、逃げずにとどまる要援護者が多かったと聞く。海路の避難となればなおさらだろう。放射線防護対策ができていないのに再稼働をするのは、その人たちを切り捨てることにならないか」

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