トランプ米大統領の誕生を受け、佐賀県内では経済政策や核軍縮の行方を不安視する声が上がった。移民排斥や差別的な発言を乱発してきただけに、不寛容な考え方が世界で連鎖することを懸念する声も漏れた。

 トランプ氏は早々に、環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明した。TPPに反対する小城市の農家田中義生さん(49)は「一息つける」と受け止めつつ、代わりに2国間の自由貿易協定(FTA)を求めてくることを心配する。「枠や呼び名が変わるだけで、貿易の問題に終わりはない。安い輸入品が増えると経営が成り立たない」

 トヨタ自動車にメキシコでの新工場建設の撤回を迫るなど、保護主義を前面に出すトランプ氏。5年前から現地に部品工場を構える佐賀鉄工所(佐賀市)は新年度の工場増強を検討していた。佐野正典総務課長(54)は「今のところは様子見。自動車関連メーカーはどこも身動きがとれずにいるはず」と困惑する。

 トランプ氏は就任前から中国に強硬姿勢を示し、製品に高関税を課す構えを見せてきた。佐賀市で翻訳業を営む韓冬梅さん(35)=中国吉林省出身=は、駆け引きの一つとみる。「アップルもボーイングも中国での市場は大きい。貿易戦争をすればアメリカの企業も疲弊してしまう。本気で仕掛けてこないのでは」

 オバマ前大統領が掲げた「核兵器なき世界」の実現には暗雲が漂う。トランプ氏は核戦力の大幅強化を唱えたり、対ロシア制裁の解除と引き換えにした核兵器の削減合意に期待を示したり、ぶれが目立つ。高校生平和大使として核廃絶を訴えてきた佐賀市の高校3年生、鶴田晴子さん(18)は「唯一の被爆国としての日本の役割が今後ますます大きくなる」と話し、大学生になっても活動を支える気持ちを強くしている。

 女性を蔑視する発言を繰り返してきたトランプ氏の大統領就任について、佐賀女子短大の田口香津子副学長(57)は「問題発言に目をつぶってでも、変化を求める米国民の切実な思いがあるのでは」と心を痛める。さらに、米女優がトランプ氏の差別的な言動を痛烈に批判したことを引き合いに「権力者に意見するのは危険が伴う。国内や県内に置き換えた場合、権力者に『間違っている』と主張できる女性がどれだけいるだろうか」と問い掛ける。

 トランプ氏の排外主義的な主張は、米国内外に拡大するのか。NPO法人「難民を助ける会」佐賀事務所長の久保田雅文さん(65)は「米国は移民が建国し、移民と難民によって発展してきた。その歴史を一人の大統領が変えることはあり得ない」とした上で、付け加えた。「私たちはトランプ氏の人権意識を批判するだけでなく、他山の石として国内の人権問題にも厳しい姿勢で向き合わなければならない。それを怠ると、日本にも彼のような人物が現れる」

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