トランプ第45代米大統領が就任した。就任演説で「今日からはひたすら『米国第一』だ」と、貿易や外交などで米国の利益だけを追求していくと宣言した。

 驚くべきは、米国が掲げてきた「自由」や「民主主義」などの基本的な価値観、建国以来の理想について、まったく語らなかった点だ。自らあおってきた国民の分断を修復し、融和を呼び掛ける言葉も、ほとんどなかった。

 就任演説からは、自らの利益につながるかどうかだけを基準に、敵か味方かを色分けする、極めて単純な世界観がはっきりした。超大国としての責務に背を向け、国内の分断をも放置する姿勢は、異様でしかない。わずか40%の支持率からのスタートは前代未聞であり、全米でデモが広がり、一部は暴徒化している。米国の分断がいかに深刻かの表れだろう。

 トランプ氏は、選挙戦の公約通りに環太平洋連携協定(TPP)からの離脱を表明し、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しにも着手した。メキシコ国境との壁も、予定通りにつくるという。

 「中間層の富が奪われ、世界中にばらまかれた」と、グローバル化を敵視してもいる。就任前からツイッターを使って圧力をかけ、メキシコに進出する企業を呼び戻すなどの介入も繰り返してきた。これで米国内に工場が残り、雇用が守られたのだと言うが、本当だろうか。

 むしろ、米国にとってはマイナスではないか。人件費が安いメキシコから米国内へ生産拠点を移せば、コストの上昇に直結する。引いては、販売価格が上がり、結局は米国内の消費者が負担することになる。米国の産業を補ってきたメキシコを切り捨てれば、最終的には米国企業が国際市場で競争力を失うだろう。

 米国が抱える課題は、広がりすぎた格差をどう是正するかではないか。トランプ氏をはじめとする一部の富裕層へ富が集中している。その富を再分配する社会的な機能が働いていないのは明らかであり、保護主義的な政策では何の解決にもならない。

 トランプ氏の支持者たちは早晩、失望と落胆を味わうのではないか。

 「米国第一」は、外交姿勢にも及ぶようだ。トランプ氏は「世界の国々との友好、親善関係を求める」としながらも「国益を最優先する」と言い切った。

 そこには、これまで自由主義世界のリーダーとして世界を率いてきたという自覚はかけらもない。複雑に利害が絡み、各国が微妙なパワーバランスで均衡を保っている外交分野までも、単純な「取引」でとらえようとするのは、あまりにも無理があるだろう。

 米国は変質し、「予測不能の時代」が始まる。安倍晋三首相は施政方針演説で日米同盟は不変の原則と述べていた。だが、トランプ氏にとって日本は今のところ、貿易赤字を生み出す、敵視すべき存在でしかなさそうだ。

 日本としては、経済的にも、安全保障上でも、利益をともにするパートナーなのだという事実を共有する必要がある。できるだけ早く首脳会談を実現させるとともに、トランプ氏の“ブレーキ役”を期待される共和党との緊密な関係づくりを急がねばならない。(古賀史生)

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