■患者本位の精密な医療

 先日、7年間病と闘った患者さんが他界されました。多発性骨髄腫でした。骨髄腫は10年前までは不治の病とされ、根治が期待できる治療方法はないと考えられていました。その後、サリドマイドをはじめとして有効な治療効果が期待できる新しい治療法が次々と開発され、場合によっては完治に近い状態で一生を過ごすことも期待できるまでになりました。

 しかしながら、最も作用の強い薬がその患者さんのためになるかというとそうとは限りません。その方の持つがん細胞の特性、患者さんの年齢や免疫状態、合併症の有無、生活習慣など総合的に判断して、患者さんと治療方針について十分話し合います。治療開始後も治療効果と副作用の状況を詳しく評価しながら、薬の量や治療期間を調整していきます。

 もちろん、標準的な治療法を基準として調整をするわけですが、医者の勝手な判断の「さじ加減」でなく、がん細胞が持つ遺伝子の変化や患者さんが持つ体質を膨大な過去のデータと照らし合わせて、科学的な治療方法の選択や調整をするのがプレシジョン・メディシンです。

 先ほどの患者さんは、骨髄腫のほかにすい臓にも病気をお持ちで、不整脈に対してはペースメーカーを装着されていました。新しい治療を選択するうえで、がん細胞の持つ遺伝子の変化を参考に、併存する病気になるべく悪影響のない治療法で、かつ外来でできる治療法をと、何度も何度も話し合いながら治療を行ってきましたが、残念ながら病に打ち勝つことはできませんでした。

 プレシジョン・メディシンはアメリカから誕生した考え方ですが、患者さん個々の状況を科学の力で的確に評価し、最もその方に合った治療方法を選択するという意味では、患者さんに優しい医療だともいえます。当院でもがんの患者さんを中心にプレシジョン・メディシンをスタートしているところです。(佐賀大医学部附属病院 検査部長・末岡榮三朗)

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