見渡す限り一面の麦の穂が波打ち、サワサワという音が心地よい。先日、佐賀市川副町の麦畑であったイベント「麦秋カフェ」に足を運んだ。吹いてくる風が、枯れ草のような、なんともいえない熟れた麦の匂いを運んでくる。心が解き放たれた。<一枚の空一枚の麦の秋>小島花枝◆黄金色の麦が果てなく広がるのは、全国3位の産地・佐賀の原風景である。大麦、小麦と刈り取りは来月上旬まで続く。昔から「麦はかます(藁(わら)むしろで作った袋)に入れるまで分からん」という。雨に弱い麦だから、収穫するまで農家は気が抜けない◆これから美味(おい)しい時期を迎えるのがシャコ(シャッパ)である。「麦シャッパ」と言って、産卵前の麦刈りの時が旬。子どものころ、有明海で取れたものを醤油(しょうゆ)で煮て、山盛りにしたシャッパをよく食べた。親たちに硬い殻のむき方を教わり、かぶりついた思い出がある。煮汁で食べるそうめんの味も格別だった◆いつしか口に入らなくなった。店頭でも並ばないので、漁協や魚市場に聞いてみると、有明海ではめっきり取れなくなったという。太良町大浦ではエサを入れた「シャッパかご」で取るが、操業する人もほとんどいない◆アゲマキやタイラギが消え、シャッパまでも…。有明海異変は若き日への郷愁を曇らせ、なんとも切ない気持ちにさせる。(章)

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