その昔は「電子の鎖」と呼んでいた。どこにいても、容赦なく追いかけてくる「ピーピーピー」という音に縛られていたからだ。ポケットベルのことである◆あれは20代のころ、車で山深い道を走り、取材先を必死に探していた。そこに突然、ポケベルの呼び出し音。あっ緊急事態の発生か。気はあせるが、人里離れた山中で公衆電話などすぐには見つからない。ふもとまで下り、急いで本社に電話すると大したことのない用件。がっくりと肩を落としたことを覚えている◆大手はサービスが終わっているが、まだ展開している会社がある。建物内や地下でもつながりやすいポケベルの特性が見直され、防災面での活用が増えているという。東日本大震災後、ポケベル電波を使った情報提供システムを自治体が導入しだした◆今は携帯電話の一斉送信メールがあっても、携帯を持たないお年寄りもいる。防災行政無線の戸別受信機は、価格が壁になって普及が進んでいない。ポケベル電波を受信できる据え置き型の専用端末は安価で、家庭に文字や音声での緊急情報が届き、避難指示を伝えるのに効果的らしい◆昼夜、追いかけられ、縛られるという負のイメージを脱ぎ捨て、いつでも行政とつながっている-。そんな、もしもの時に正確な情報を得られる「安心の絆」となれば、大歓迎である。(章)

このエントリーをはてなブックマークに追加