天皇陛下の退位について検討を続けている政府の有識者会議は、将来の全ての天皇も対象とする恒久制度ではなく、陛下一代限りの特別法での対応が望ましいという考えを示した。短時間で結論を出すのが難しかったことが背景にあるが、政府も有識者会議の考えを受け入れる方針だ。

 陛下が国民向けのメッセージで、高齢化の問題と、それに伴う退位への思いをにじませたのが昨年8月だ。あれから5カ月、有識者会議は大学研究者らから意見聴取するなど議論を重ねている。

 退位の是非は明治時代以降、「終身制」と考えられていた天皇制の根幹に関わる問題といわれてきた。歴史をさかのぼれば、時の権力者の思惑で、天皇の退位や即位が政治利用されたこともあった。制度の安定的な継続を考えれば、恣意(しい)的な退位は認めないというのが、専門家たちに共通する認識だったと思う。

 意見が大きく分かれたのは、天皇を国家統合の象徴として「存在」を重視するか、公務を通じて国民と関わり合う「活動」を重視するかだった。そこで退位の議論の立ち位置も異なった。

 保守的な論客に多い「存在」を重視する考え方から言えば、公務の分担や負担軽減は可能であり、たとえ、病気や高齢で公務の遂行が難しくても、皇太子が摂政に就くことで、終身制は維持できると考えている。

 しかし、陛下自身が被災地訪問などを通じ、人々とのつながりや、目に見える活動をたゆまなく続け、現行憲法が定める「象徴天皇」のあり方を模索してきた。その天皇も生身の人間であり、年齢を重ねれば、象徴の役割が果たせなくなる。そんな陛下の思いと、これまでの行動への評価が、各種世論調査でも示されている「退位容認」の国民の声だろう。

 ただ、退位を恒久制度とするには、高齢が要件になるにしても何歳で認めるか課題も多い。有識者会議は、一代限定の方が「その時々で的確に判断できる」と意見をまとめた。退位に否定的な保守層を支持基盤とする安倍政権も、陛下の意向も踏まえた中間的な案として、一代限りの「例外」とした特別法での決着を考えているとみられる。

 もちろん、天皇の高齢化という問題は陛下だけでなく、今後の天皇も直面する問題だろう。天皇の終身制は憲法で明文化されているわけではなく、退位の恒久制度化は皇室典範の改正でできる。これからの国会審議での検討課題としておきたい。

 また、皇位継承が抱える問題は高齢化だけではない。皇太子さま(56)より若い皇位継承者は陛下の次男の秋篠宮さま(51)と、その長男の悠仁さま(10)の2人だけだ。制度の安定化を考えるのであれば、女性・女系天皇の議論の先送りを続けてもいいのか。

 政府は4月中にも「退位特別法」案を国会に提出するとみられる。陛下の退位は2018年の天皇誕生日(12月23日)か、翌年の元日が検討されている。現行憲法は「天皇の地位は主権の存する国民の総意にもとづく」とあり、陛下も昨夏のメッセージで、今後の皇室について国民的な議論を求めている。合意形成を優先しすぎて、広がりを欠く議論にならないように求めたい。(日高勉)

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