作家の太宰治は戦時下の1944年、3週間かけて初めて故郷の津軽地方を1周する。取材旅行をもとにした紀行文とも自伝的小説ともいえる作品が『津軽』である◆その扉裏に「津軽の雪」として「こな雪」「つぶ雪」「わた雪」「みず雪」「かた雪」「ざらめ雪」「こおり雪」の七つの雪を記している。このうち、「かた(堅)雪」は早春の季語である。春、解けかかった雪が夜間に冷えて硬く凍りついたものをいう。栃木県のスキー場で高校生らがのまれた雪崩の事故の報に、この言葉を思い出した◆表層雪崩の可能性があるという。1週間前にここで積もった雪が、いったん気温が上昇して解け始め、再びの寒気で凍ったようだ。その上に深夜から一気に降り積もった雪が崩れたとみられる◆生徒たちは、きっと親御さんたちから笑顔で送り出されただろう。元気に「ただいま。楽しかった」と帰ってくるはずだった。まさかこんな事故に遭遇するとは思いもしなかったに違いない。輝かしい未来と希望があった子どもたちなのに、思わぬことに巻き込まれてしまった。ニュースに言葉を失う◆スキー場は20日で営業を終えていて、雪崩注意報も出ていた。雪山に足を踏み入れてさえいなければ…。自然は怖いもので、時に牙(きば)をむく。今となっては、取り戻せないのがいたたまれない。(章)

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