米大統領に就任したトランプ氏と米メディアとの間で「全面戦争」が勃発している。トランプ政権は報道側の質問を受け付けなかったり、ソーシャルメディアを使ったりして主張を拡散。これに対しメディア側はデータを示して事実誤認を指摘するが、相対的に信頼度が下がっていることもあり、踏ん張りどころとなっている。

 トランプ氏は就任直前に開いた記者会見で、自らの意に沿わない報道をした記者をあからさまに攻撃し質問を遮った。就任直後に米中央情報局本部で行った演説では、就任式の聴衆数を「約25万人」と報じられたことに激怒。「約150万人はいた」と主張し「私は正直な報道が好きだ。彼らは高い代償を払うことになる」と恫喝(どうかつ)した。

 この数時間後、スパイサー大統領報道官もホワイトハウスで初の記者会見に臨み「過去最大の人数だった。熱狂ぶりを小さく見せようとするのは恥ずべき間違いだ」と批判。質問を一切受けずに退場する異例の事態となった。

 また、この会見翌日、テレビ番組に出演したコンウェイ大統領顧問は、司会者から「(報道官に)なぜ反証可能なうそをつかせたのか」と突っ込まれ「スパイサー報道官はオルタナティブ・ファクトを示した」と回答。オルタナティブは「代わりの」「別の」、ファクトは「事実」を意味する。直訳すれば「もう一つの事実」となるが、要するに「うそ」である。

 トランプ政権が特殊なのは、誤認か確信かは分からないが、こうしたうそを多数、口にするところだ。トランプ氏自身「ファクトはない。あるのはオピニオン(意見)だ」と公言してもおり、政治目的のためには「うそも方便」と割り切っている面も見える。

 トランプ氏は「本当は好きではない」と述べるツイッターを「不正直なメディアに対抗する唯一の手段だ」として、就任後も投稿を続ける意向を示した。SNSは支持者の間で盲信的に拡散されるから、したたかな戦略でもある。メディア側はマスからソーシャルに移ったデジタル時代の報道の在り方とも格闘しなくてはならない。

 加えて大変なのは、こうしたトランプ氏のメディア批判の態度は国民からも批判を招く一方、一定の共感も呼んでいる点だ。背景にあるのはメディア不信。米ギャラップ社の世論調査では「マスメディアは正確で公正な報道をしている」と信じる国民は1976年は72%だったが、昨年9月には32%まで落ち込んでいる。

 メディア側は昨年の大統領選から、政治家の言説の真偽を検証する「ファクト・チェック(事実確認)」と呼ばれる報道に力を入れている。候補者の演説や討論会での発言に虚偽や誇張がないか評価し、有権者に客観的な判断材料を提供する取り組みだ。データを示して反証するこの作業は地道だが基本であり、失った信頼回復につながることを期待したい。

 オバマ前大統領は任期最後の会見で、メディアが民主主義に不可欠との認識を示し「あなた方は(権力に対し)懐疑的であるべきだし、厳しい質問をすべきだ。お世辞を言うことが仕事ではない」と語った。自由と民主主義の国・アメリカの底力を感じるこの言葉に希望をつなぎたい。(森本貴彦)

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