強いのか、弱いのか。ここ一番となると、どうしても勝てない-。そんな人間臭さが魅力だった稀勢の里関が、ついに横綱に上り詰めた◆取り組み直前に見せる表情がいい。かすかに口角を上げて意味もなく笑ってみたり、目をぱちぱちとしばたたかせてみたり。優勝した今場所は、どこか投げやりな仏頂面に見えたが、いずれも緊張をほぐすルーティンだったらしい。昨年は年間最多勝を誇りながら、優勝は一度もなし。精神面のもろさが度々指摘されてもいた◆日本相撲協会が作った公式ソングの動画でも、その巨漢は周囲から浮いている。「はっきよーい、はっきよい」と楽しげに歌う関取衆の中、ひとりむすっとしたまま。おそらくは「相撲界の盛り上げに一役買いたい」とカメラの前に出てみたけれど、いったいどんな顔をすればいいのか、と困った揚げ句の仏頂面だったか◆伝達式の口上は「横綱の名に恥じぬよう」。その人柄と、土俵でのまっすぐな取り口が重なる。中学の卒業文集には「天才は生まれつきです。もうなれません。努力です。努力で天才に勝ちます」と書いていた◆私たちは年齢を重ねるにつれて、努力が必ずしも報われるわけではないのだと思い知らされる。だからこそ、一歩ずつ半歩ずつと頂点にたどりついた姿に胸が熱くなる。確かに努力は勝つのだ、と。(史)

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