米グーグル傘下の人工知能(AI)開発ベンチャー「ディープマインド」(英国)の囲碁ソフト「アルファ碁」と、世界最強とされる中国人棋士、柯潔九段の3番勝負を、ソフトが制した。囲碁は選択肢が著しく多いゲームで、プログラム作成が難しいと長年いわれていたが、ついに人間を超えたと受け止められている。

 コンピューター科学の発展を象徴する出来事だ。ディープマインド社は囲碁ソフトで培った技術を医療分野などに応用する考えで、AIの活用に弾みがつきそうだ。

 もっとも、AIについては人間の幸福につながるか疑問視する声もある。AIの普及を巡る民間シンクタンクの予測を見ると「人間の仕事の49%は代替可能」「240万人の雇用が失われる」といった試算が並んでおり、不安をかきたてる。

 囲碁対決で人間の敗北が確定し、囲碁ファンの間で落胆の声が渦巻いている一方、アルファ碁の打ち方に学んで囲碁の研究を深めようと、積極的に受け止めているプロ棋士も多い。プロの対局では昨年来、アルファ碁が得意とする手が流行している。人類社会がAIとどう向き合うか考える上で、こうした囲碁界の反応も参考にしたい。

 囲碁は中国文明の黎明(れいめい)期から伝わるゲームで、日本でも古代から親しまれている。碁盤に刻まれた361の目に黒石、白石を置き、囲った陣地が広い方が勝つ。シンプルなルールと、言語や文化に縛られない抽象性が特徴で、欧米にも熱心なファンがいる。

 選択肢が豊富な序盤・中盤では、トップ級の棋士の間でも、どれが最善手か意見が分かれることが多い。その自由度の高さがソフトをつくる上で壁となり、将棋やチェスとは異なって囲碁では当分、ソフトは人間に追いつけないとみられていた。ところが、アルファ碁が昨年3月に韓国で、トップ級の棋士との5番勝負に4勝1敗で勝ち、衝撃が広がった。

 アルファ碁は、膨大な情報からAIが自ら学習し、勝つ可能性が大きい手を判断する能力を高める「ディープラーニング(深層学習)」という技術を導入した。ディープマインド社は「毎日、アルファ碁は前日より強くなる」と強調する。

 ただ、韓国人棋士に1敗した対局で、手が突然乱れて不利になった場面があり、ミスが皆無ではないことも明らかになった。人間の生命に関わる医療や車の自動運転に同じ技術を応用する場合、課題となるだろう。

 アルファ碁は疲れや感情に左右されないだけではない。伝統的に良くないと考えられていた打ち方に、実は好手があることを示してくれる。局地戦にこだわらず碁盤全体を見渡す大局観に優れているという魅力もある。

 囲碁では、碁盤の四つの隅から陣地を取り合うのが常道で、隅の打ち方は徹底的に研究されてきた。だが、中央の打ち方の研究は進んでおらず、現代の囲碁界の課題になっている。アルファ碁に「中央志向」の手が多いことも、棋士たちに刺激を与えている。

 アルファ碁は、どう考えて打ったか説明できないのが、人間と違う欠点だ。プロ棋士による解説を聞いて初めて囲碁ファンは対局を楽しめる。AIが人間の能力を超えても、人間にしかできないことはあるということを示している。(共同通信・上村淳)

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