どんな言葉よりも、たったひとつの花束が思いを伝えることがある。真珠湾で花を手向けた安倍晋三首相は、オバマ大統領の隣で「私に沈黙を促す場所だ。言葉を失う」と切り出し、日米の和解の意義とともに不戦の覚悟を語った◆この瞬間を、誰よりも待ちわびていたジャーナリストがいる。10年以上前から、日米の相互献花を提案し、『オバマ大統領がヒロシマに献花する日』の著書もある共同通信社OBの松尾文夫さん(83)だ◆この春、東京で話を聞いたが、英語の「占領軍」を「進駐軍」と言い換えた、日本の戦後のあいまいさを引き合いに「日本人はいかにけじめをつけていないか」と嘆いていた。同じ敗戦国でありながら、厳しく戦後を清算してきたドイツとは大きな違いがある、と◆第2次世界大戦末期、米英軍はドイツ東部の古都ドレスデンを無差別空爆する。犠牲者数3万5千人。戦後50年の節目に米国と英国、そしてドイツは合同で死者を弔った。「ドレスデンの和解」である。死者を悼むのに敵も味方もない-。その確信が松尾さんの“献花外交”というアイデアにつながった◆安倍首相が献花した記念館の海底に沈む戦艦アリゾナからは今もオイルが漏れ出し、「アリゾナの涙」と呼ばれる。手向けられた花は、75年の時を経て日米両国が恩讐(おんしゅう)を越えた証しである。(史)

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