待望の横綱誕生だ。稀勢の里(30)=茨城県出身=が第72代横綱に昇進し、2003年の貴乃花の引退以来、14年間不在が続いた日本出身の横綱がようやく番付に復活する。後に続く若い力士たちの手本となり、大いに相撲界を盛り上げてほしい。

 直近の初場所が14勝1敗の優勝とはいえ、横綱昇進には驚きの声も上がった。「2場所連続の優勝、または優勝に準ずる成績」という基準を考えれば、先場所(九州場所)の成績が12勝3敗で、優勝者と勝ち星が2差の2位という成績は物足りなさがあったかもしれない。

 また、今場所が初優勝であり、長く不在が続いた日本出身の横綱を誕生させるために、基準を甘く解釈したのではないかという疑問の声が上がったのも事実だ。ただ、昨年は年間最多勝(69勝21敗)であったことを考えれば、その安定感は高く評価できるということだろう。

 元大関魁皇の言葉を借りれば、「最近は横綱よりも安定した成績を残しており、どっしりした雰囲気が魅力」という。相撲に打ち込むきまじめな姿は「硬派で浮ついたところがなく、番付に応じて自覚を持つ男。優勝という地位はさらなる安定感を生み、まだまだ強くなる」。そんな期待を抱かせる力士だ。

 17歳9カ月の若さでの十両昇進は貴乃花に次ぐスピード昇進で、将来を期待されたが、横綱となるまで13年近くかかった。苦労続きの歩みは「おしん横綱」と呼ばれ、同じく30歳で横綱になった亡き師匠鳴戸親方(横綱隆の里)を思い起こさせる。稀勢の里の昇進のために、二所ノ関一門が一体となって稽古をバックアップしたところにも物語性を感じる。

 今は連日、国技館が「満員御礼」となり、相撲人気は完全に復活したといえるだろう。しかし、八百長問題や賭博など世間を騒がせた不祥事が相次いだのも記憶に新しい。好調な集客で忘れがちだが、ファンのための改革をさらに進めなければならない。

 そういう意味でも、横綱となった稀勢の里には角界の新リーダーとして土俵の外でも若い力士たちの手本になってほしい。横綱に昇進するには民間委員らでつくる横綱審議委員会の推挙が必要となるが、それは強さだけでなく、人間性が高く求められるからだ。

 稀勢の里は遅咲きの横綱だが、7月の名古屋場所で在位10年となる大横綱の白鵬もまだ31歳で、年齢は近い。これまでの対戦成績は白鵬が43勝16敗と大きくリードしているものの、白鵬の歴代2位の63連勝も、同5位の43連勝も、止めたのはいずれも稀勢の里だ。2人のライバル心は強い。

 大相撲には時代を代表する取り組みがあった。「大鵬-柏戸」「北の湖-輪島」「千代の富士-隆の里」「貴乃花-曙」などだろう。これからは「稀勢の里-白鵬」を千秋楽の結びの一番で何度も見たいし、2人が相撲史に残る名勝負を演じてこそ、横綱昇進の意味はある。

 かつて師匠鳴戸親方は、愛弟子に「横綱になれば見える景色が違う」と諭した。ここにたどり着くまで時間はかかったが、まだ30歳だ。円熟期に入ったその強さを、できるだけ長くファンに見せてほしい。(日高勉)

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