国営諫早湾干拓事業の訴訟で、長崎地裁は和解協議を打ち切った。潮受け堤防排水門の開門調査を求める有明海の漁業者と、反対する長崎県の営農者との溝が埋めがたいためで、4月17日に判決を出す。異なる二つの司法判断がそのまま残る可能性は高く、問題解決の道のりは遠い。

 一連の訴訟では全く異なる司法判断が示されている。漁業者の訴えを聞き入れ、国に開門調査を求めた佐賀地裁判決(2008年)、それを支持した福岡高裁判決(10年)と、長崎地裁が干拓営農者の主張を認め、国に開門差し止めを命じた仮処分決定(13年)だ。

 漁業者と営農者との対立は、判決で白黒の決着をつけることは難しく、福岡高裁と長崎地裁は国も加えた三者で和解するように求めた。その話し合いが不調のまま終わった形となった。

 国は上告せず、福岡高裁判決は確定しており、法的には開門調査の実現へ行動する責任がある。実際には事業を進めた立場からか営農者寄りで、開門を断念させるために漁業再生を名目に総額100億円の基金案を提示した。

 さらに漁業者に基金案を納得してもらうために、説得材料として「想定問答」を国が用意し、漁業団体に提示していたことが明らかになった。

 結局、想定問答の存在が明るみに出てまもなく、和解協議は終わってしまうが、国が開門実現のために何の努力もしていないことが明らかになっただけだった。漁業者が「不公平極まりない」と憤るのも当然だろう。

 もちろん、干拓地での農業は始まっており、営農者が農作物を守る立場で開門調査に反対するのは当然だ。そうであるなら、農業被害が出ないような開門調査の進め方を検討すればいいだけだ。対立をあおるような国のやり方に強い違和感を覚える。

 一方で、漁業被害は今も深刻だ。潮受け堤防閉め切り後、タイラギなど漁獲量減少を訴える声は早くからあった。国は立ち止まって考える時間はあったはずだ。

 干拓が完成する前の2004年8月、佐賀地裁は「漁業被害は深刻で、著しい損害を避けるためには事業の再検討が必要」と巨大公共事業をストップする異例の仮処分を決定している。もし、国が地裁の忠告を真摯(しんし)に受け止めていれば、農業と漁業を両立させるための対策は打てたはずだ。これほどの長期間、問題がこじれることもなかったのではないか。

 長崎地裁は仮処分で開門の差し止めを命じており、来月の判決も同じ内容の可能性が高いという。そうなれば、福岡高裁判決との矛盾は解消できず、混乱はさらに続くだろう。

 政治の責任は大きいが、山本農相は「大変残念。引き続き一連の訴訟に適切に対応し、問題の解決に向けて真摯に努力を重ねたい」と話す。言葉に具体性がなく、問題解決への思いが伝わらない。

 13年前の佐賀地裁決定の時に取材したが、漁業者たちが「有明海再生に光が差した」と目に涙を浮かべて喜んだのを思い出す。

 国は批判が出ても引き延ばし、うやむやにしたいのだろうが、宝の海の記憶が漁業者から消えるはずもない。開門調査で有明海異変の原因を究明しない限り、問題は前に進まない。(日高勉)

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