記憶の中にはっきりと刻まれた風景がある。旧国鉄佐賀線。30年前の3月28日に廃止された。佐賀(佐賀市)-瀬高(福岡県みやま市)間の24・1キロを結び、その時々の世相を車窓に映して人や物を運んだ。全線開通から約半世紀の歴史だった◆当時、サヨナラ記念列車に乗ってルポを書いたことを、きのうのことのように覚えている。佐賀駅2番ホームから満員の鉄道ファンを乗せた列車が走り出すと、駅に着くたびに乗客がハンカチや手を振って別れを惜しんだ。みんな「寂しい」「残したかった」と口をそろえて…◆「小さいころは柳川から佐賀まで田植えの加勢のために乗る人が多く、さながら田植え列車のようでしたよ」。1人デッキに立っていた60代の女性がそんな思い出話をしてくれた。押し寄せる車社会の波に勝てずに幕を下ろしたが、それぞれの胸には確かに残る◆佐賀空港が開港する時、「佐賀線があれば、線路を引き込み臨空鉄道として使えたのに」と惜しんだ県幹部もいた。くしくも、国鉄民営化でJR九州が発足して4月1日で30年。佐賀線の廃止も、赤字路線を切り離し身軽にしての出発の意味合いがあったのだろうか◆少子高齢化や過疎化を背景に、地方鉄道を取り巻く環境は厳しい。在(あ)る時はお荷物でも、なくして気がつく大切なものの一つだったように思う。(章)

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